第7話 sister

「本っ当に、ごめんなさい!脅かす気は無かったんです!」

「・・・もう大丈夫だから、良いよ。本当にさ。こっちこそ、いきなり大声を出してすまない」


 あまりの恥ずかしさに自分でもわかる程、赤くなった顔を片手で隠し、パーサーは謝罪した。


「えっと、それで君はこの学校の学生じゃないよね?」


 一人前のラビは伝統的に黒服にハットを着用する。

 その為、ラビに関連する学校は大概、男女ともに黒のブレザータイプの学生服が使用されているが、目の前の少女は灰色を基調としたベールと肌の露出の少ない袖の長いワンピースを着ている。


「あっ、ここって学校だったんですか?私、連れと一緒だったんですが途中ではぐれてしまって人波みに流され、気付いたらここに居たんです。よろしければ、駅通りに行ける道を教えてもらえませんか?」

「もちろん、良いよ。何なら、送って行くよ」


 そんな、悪いですと遠慮する少女。

 綺麗と言うより、可愛いと表したくなる少女にパーサーは自然とニコリ笑い掛けた。


「僕と僕の連れも帰り道は駅通りの方向なんだ。だから、気にしないで良いよ。僕はパーサー・フロイツ、君は?」

「ありがとうございます。私はマリア・リベラって言います」


 名前を名乗ってお互いに握手をしようと手を出そうとしたとき、お待たせとジェームズが鞄を片手に戻って来た。

 そして、ジェームズはマリアの方に気付いて顔を険しくした。


「パーサー、何でそいつがここに居るんだ?そいつはシスターだぞ!」


 パーサーはえっと驚いた。

 ラビに対するデモなどは『ブラザー』と呼ばれる男性の聖職者が主に実施しており、女性の聖職者は基本的に参加はしない。

 その為、『シスター』と呼ばれる彼女達をパーサーは今まで見たことがなかった。

 そして、ジェームズの実家はゴーレムの販売で有名な家で、そう言った教会の人間が店に抗議に来ることがあったことからジェームズはマリアがシスターだと直ぐにわかった。

 あからさまに敵意を剥き出したジェームズにシスターと呼ばれたマリアは少し、怯えた様に一歩後ずさった。


「ちょっと、待って下さい。貴方達がラビですか!?」


 どうやら、マリアもパーサーと同じで全くラビと気付いてなかったようで困った様に整った細い眉を八の字にしている。


「何だよ、知らなかった?嘘つけよ!ラビの学生服を着ているのにか?」

「うぅ、はい。実はお恥ずかしながら、そのっ、授業でも死神の様な真っ黒な服を着ているとしか習わなかったので、もっと禍々しいのを想像してました」


 ジェームズはその答えに鼻で笑い、それは凄い想像力だと皮肉る。


「ジェームズ、もう止めなよ。例え、彼女がシスターであっても女の子に対してとる態度じゃない」


 見かねてジェームズを止め、パーサーはマリアにすまないと謝罪する。


「いえ、私たちの主張が彼やラビの皆様に不快にさせてしまっているのは事実です。彼の態度を私には咎める資格はありません。大変、申し訳なく思います」


 そう言ってマリアは頭を下げた。


「でも、私たちは主張を変える積もりはありません。ゴーレムは主への冒涜です。ゴーレムがある限り、いつかは主の怒りで地上に良くない事が起こってしまいます」


 頭を上げてパーサー達に主張するマリアには可愛いという印象に凛とした感じが加わり、魅力的に感じた。


「ハッ、その時は俺達のゴーレムで全て解決してやるよ。パーサー、行こうぜ」

「僕は彼女を駅前通りに案内するよ。さっき、約束したからね。ラビは契約は重んじる」

「そうか。それじゃ、仕方ないよな。悪いが俺は教会の人間に関わりたくないから、今日は遠回りで帰るわ」


 変な洗脳されんなよと捨て台詞を言ってジェームズは背を向けて歩き出した。


「すみません。お友達を怒らせてしまったみたいで」

「いや、良いよ。さぁ、行こう。こっちだ」


 二人は無言で廊下を抜けてロビーに出て来た。


「「あの」」


 静寂に耐え兼ねて口を開くが、タイミングが重なって二人は苦笑してしまった。


「ごめん、レディーファストって事でお先にどうぞ」

「フフ、ありがとうございます。では、パーサーさんは私と歩いていても大丈夫なんですか?えっと、シスターと一緒にいて他のラビに悪い印象を抱かれませんか?」

「ああ、今日は午後から休みでね。残っているのは、さっきまで一緒にいた教授ぐらいなものなんだ。だから、学校には今は誰も居ないから、大丈夫だよ。次は僕だね。シスター・マリアは僕と同じくらいの歳だよね?教会は君みたいな人が多いのかな?」

「いえ、さっきは偉そうにシスターと言いましたが、私はシスターと名乗れる身では無いんです。まだ、途中の神学生ですからパーサーさんと同じですね」


 あと、気軽にマリアと呼んで下さいと微笑んだ。

 全く、世の中は上手くは出来ていないなとパーサーは内心で思った。

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