第4話 クラーディ

「ハァー、本当に一時はどうなるかと思ったな」

「そうだね。でも、教授のwaxworkが居て良かった」


 パーサーとジェームズは二人で学生食堂へと向かいつつ、教授の講義を振り返っていた。


「でも、waxworkってあんなに強かったか?ウェイトレスとか使用人ってイメージしか無かったぜ」

「そうだね。僕もだ。でも、あんな細身でもゴーレムだから人よりも力が強いんだね。」

「あっパーサー、あそこ」


 ジェームズは廊下に足を引きずりながら歩くwaxworkを指差した。


「あいつは、たしかクラウスだったかな?」

「いや多分、クラーディだよ。おーい、クラーディ!」


 パーサーの呼び声にwaxworkクラーディは歩を止めて顔を二人に向けようとしたが、途端にバランスを崩したのか床に倒れかけた。


「おっ、おい!大丈夫か?」


 咄嗟にパーサーは近くまで駆け寄るとクラーディの肩に手をかけて支えてやる。

 そこでパーサーはこのクラーディという個体は随分と華奢に作られているなと思った。


「お前、教授から作業部屋に行く様に命令されているけど、行けるのか?」


 近くまで寄ったジェームズがそう聞くとクラーディはコクっと首を縦に振る。

 そして、もう大丈夫だと言うようにパーサーを軽く押すと自力で立ち上がった。

 クラーディを見ると顔の作りや身長から、このwaxworkは自分達と同年代の十代半ば位のデザインで作られたゴーレムだとパーサーは気付いた。

 実際、学校など子供達のいる施設には子供達がゴーレムに馴染める様にこういった幼い感じのデザインのゴーレムが配置してあると聞いた事があったが、道具の一種としか認識していなかったゴーレムをこうして、まじまじと観察したのは初めてだった。


「顔のヒビが首筋まで入ってるな。それに足を引きずってるって事は足にも相当なダメージを受けているだろ?ほら、腕を出せよ。僕達が作業部屋に行くのを手伝ってやる」

「は?パーサー、学食はどうするんだ?」


 ジェームズは文句を言ったが、パーサーはまだ時間があるだろと言ってクラーディの腕を肩にかけた。

 クラーディは仕切りに首を横に振るが、お構い無し連れて行く。


「仕方ないな。まっ、こいつはアラン達の恩人だ。ほら、左腕を貸せよ。おい、そんなに首を振るなよ。ヒビが広がるぞ。それに蝋の粉が目に入るだろ」


しばらくして断るこを諦めたのか大人しくなったクラーディを二人はヒビが広がらない様に慎重に作業部屋に連れて行く。

 そして、作業部屋の前に着くとパーサーはドアをノックした。


「教授、ウィルソン教授、居ますか?パーサーです。教授のwaxworkを連れて来ました」


 数回、声を掛けるが中からの返答は無い。


「まだ、戻って無いみたいだな」

「どうする?こいつをドアの前に置いて行くか?」

「いや、教授はクラーディに作業部屋に行く様に命令したから、鍵は掛かってない筈だ。ほら」


 キィと軽く木材が軋む音をたて扉が開くとゴーレム関連の本と資料が乱雑に積み上げられた部屋が姿を見せた。

 更に絵の具や塗料から発せられる独特な油の匂いが漂ってくる。


「うへぇ、俺は何だか苦手なんだよ。この匂い。ん、どうした?」


 肩のクラーディがスッと部屋の片隅に置かれた安楽椅子を指差した。


「あの椅子に座らせれば良いのか?」


 ジェームズが問うとクラーディは首を縦に振る。

 二人はクラーディを安楽椅子に座らせると物珍しそうに教授の作業部屋を見渡した。


「ウィルソン教授の作業部屋って初めて入ったけど、何て言うか、随分と散らかっているね」

「そうだな、、、。なあ、来週のテストの問題用紙あるんじゃないか?パーサー、今のうちに探して見ようぜ!」

「ジェームズ。何、馬鹿言ってんだよ」


 呆れた様にパーサーは悪友に止めておけよと言う。

 心なしか、安楽椅子に座るクラーディも何か咎める様にジェームズを見つめている。


「冗談だよ。本気にすんなよ。てか、隣の奴、ゴーレムの癖にそんな目で俺を見るな!」

「私には九割くらいは本気で言ってる様に聞こえたよ、ジェームズ君」

「ウヒャッ!」


 突然、聞こえた教授の声にジェームズは奇声を発して飛び上がった。

パーサーは教授の声にでは無く、ジェームズの奇声でドキッと心臓が脈打ったが寸前で奇声を上げるのを留めれた事にホッと息をついた。


「ハッハハハ!二人とも驚かせてしまい、すまなかったね」


 笑いと共にウィルソン教授は作業部屋に入って来た。


「どうやら、クラーディが世話になった様だね。ありがとう」

「いえ、僕達はたまたま廊下で彼にあったものですから」

「動けなかった、こいつを部屋に連れて来まして椅子に座らせたんですよ!いやー大変でした!本当にですねー!」

「ハハハ、ジェームズ君。大丈夫だ、今の言葉は聞こえかった事にするから」


 ウィルソン教授はそう言うとデスクから、椅子を取り出して座った。

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