繰り返される復讐の歴史

 斬れる。

 この剣なら、暗黒騎士を倒せる。


 照り返しの鈍い暗黒騎士の鎧、その頭部を斬り飛ばしながらアレンは感じた。

 しかしその数は無数、射程内に入ると俊敏になる特性は変わっていない。

 群がるその姿はアリの群れによく似ていた。

 道を阻まれたその向こうでゼファルが嘲笑う。


「無駄だ。暗黒騎士は人形に過ぎぬ。いくら斬れどもまた蘇る」


 アレンに飛ばされた暗黒騎士の頭部、その中身は空だ。

 斬り続けるアレンは手応えで気付いていた。

 問題はない。

 少しずつではあるがゼファルに近付いている。以前と違い体力は存分にある。剣が届きさえすれば。

 復讐が、果たせる。


「アレン、やめて、アレンッ!!」


 魔王の覚醒により震れる魔王の間、轟音の中激しく散らされる金属音、そんな中でココは手を伸ばしアレンに叫んだ。

 アレンは鬼になっていた。

 その表情からは人間が消えていた。叫びが届いた様子はなかった。

 無理もない、目の前に人生を賭した復讐の相手がいる。

 そのために生きてきた。そのためだけに生きてきた。

 迷いは断ち切れた。

 仇の理由が復讐と知って消えた。


「ココちゃん危ないっ!!」


 ショコラがココに覆いかぶさってすぐ、暗黒騎士の腕が吹き飛んできた。

 絶対防御により怪我はなかったが、ココとショコラにとっては疑惑を確信に変える出来事だった。

 アレンにはココやショコラが見えていない。


「……ショコラ、勝手なお願いがあるのじゃが――」

「大丈夫です! ゼファルさんは私が守ります!」


 ココが頼むより早く、ショコラは力強く引き受けた。

 ショコラにゼファルを守る義理はない。

 しかし、ゼファルを殺す理由もない。

 ならば優先されるのはアレンの歪んだ生き方を止める事だ。


「アレンさんとゼファルさんのあいだに割り込みますっ! ココちゃんも来て!」


 ココの手を取り、激しく揺れる床を這いながら進んでいく。

 大丈夫、まだ時間はある。

 ショコラが思ったその時、アレンが状況を変えた。


「『俺の邪魔をするな』ッ!!」


 豪速の剣辻、吹き荒れる烈風。群がる暗黒騎士達をアレンは斬るでなくまとめて叩き飛ばした。堅牢なはずの壁や床を穿ち暗黒騎士達がめり込む。

 飛んできた暗黒騎士をゼファルは杖で叩き落した。

 そして睨め付ける。睨み合う。

 復讐に生きた二人、アレンとゼファルを阻むものは何もない。


「アレンッ!!」

「アレンさんッ!!」


 その声、もはや届かず。


「『叩っ切る』ッ!!」


 アレンの渾身の斬撃をゼファルは杖で防ごうとした。しかし杖が絶ち斬られた。

 六翼を翻し後方へと更に飛翔し、ゼファルは杖を再生させた。


「その剣、やはり絶対防御を斬るか」


 絶対をも斬り捨てる剣を構え直し、アレンは再びゼファルに仕掛ける。


「『叩き潰す』ッ!!」

「遅い」


 再生したゼファルの杖から莫大な魔力の波動が発せられ、アレンは壁に縫い付けられた。魔法を使われる前に倒してきたアレンは、魔法に対する防御が脆い。


「アレンさんっ!!」


 叫び、ショコラはココを連れアレンのそばへと転移した。すぐさま治癒のページを破る。焼かれていた全身が即座に回復し、アレンは目を開いた。


「寄るなッ!! 邪魔するんじゃねえッ!!」

「駄目ですっ! お願いです、復讐なんかやめてくださいっ!」

「頼む、やめてくれ! 私のおじいちゃんを殺さないで!!」

「うるせえッ!!」


 一喝、アレンはココとショコラを突き飛ばした。剣を手にアレンは再び立ち上がる。ゼファルは既に杖をこちらに向けている。

 魔力の波動、第二波。

 消えたように見えるほどの速さでアレンは跳躍、更に宙を蹴りゼファルに近付こうとしたが――しかし。


「『俺の邪魔をするな』ッ!!」


 回復した暗黒騎士達が再び道を塞いだ。

 アレンは同じように吹き飛ばす技を使ったが、暗黒騎士達はのけ反りこそしたもののその場に留まった。

 驚きに見開いたアレンの目を見、ゼファルは嘲笑う。


「同じ手が二度通用すると思ったか?」


 そして始まる暗黒騎士達による怒涛のラッシュ。

 そのすべてを防ぎつつ、アレンは剣を振るい続ける。


「うおぉおおおおおおおおおおおおおッ!!」


 無数の暗黒騎士達を相手に、アレンは拮抗していた。

 しかし、それが長く続かないのは誰の目にも明らかだった。暗黒騎士達の後ろにはゼファルがいる。アレンの動きを封じた状態で何もしない訳がない。

 見ている事だけしかできないショコラが悲鳴を上げる。


「大変じゃ、アレンがやられてしまうぞ!」

「大丈夫、アレンさんの後ろに転移して絶対防御を――」

「させると思うか」


 いつの間にかゼファルはココ達のすぐ前に来ていた。剛腕に掴み上げられ、ショコラは自らの慢心に気付き、恐怖した。

 絶対防御は、絶対。

 だが、絶対防御を展開できるゼファルなら、キャンセルも可能なのではないか?

 

「おじいちゃん、やめて――――――ッ!!」


 ココの叫び虚しく。

 ショコラは豪速でもって彼方の壁へと叩き付けられた。ショコラは力なく崩れ落ち、そのまま動かなくなった。

 アレンへと振り返ったゼファルの足にしがみつき、ココは泣き叫ぶ。


「お願いやめてっ! 戦わないでっ! アレンもショコラも傷付けないでっ!!」

「……終わらせたかった。お前に知られず、何もかも」


 アレンはこちらを見ていた。暗黒騎士達に動きを封じられながら、それでもゼファルを睨み付けていた。

 杖をアレンに向け、罪なき愛しい孫娘にゼファルは言う。


「お前は決して、わしのようになってはならん」


 そして、杖先から魔力の波動を放ち――

 暗黒騎士達もろとも、再びアレンを彼方の壁へと叩き付けた。


 アレンは意識を失い。

 ショコラに至っては生死すら不明。

 それでも。

 この戦いは、まだ終わらない。

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