はじめての世界

 勇者アレンと魔王ココ、二人は無事に森を抜けた。青い草原、青い空が広がっている。


「わぁ……っ!」


 ココは目を輝かせ、草原を駆けた。


「すごい、すごいぞ! 本物の世界じゃ! ここが世界というものか!」

「うん? お前、城から出た事なかったのか?」

「なかった! 私室と魔王の間、それだけが私の世界じゃった! 地上にこうした世界があるのは知っていた、だが本当に来たのは初めてじゃ!」


 目を細め、ココは振り返った。


「美しいの、世界は。父上が欲しがったのも分からんではないわ」

「おい! まさかお前までそう思うのか?」

「確かに私は魔王じゃがな、父上の行いを正しいとは思わん。魔族の歴史書にも最大の過ちと書いておるわ。たとえ姿かたちが違おうとも、争うのは間違いじゃ。なのにどうして父上は――私にも、分からんがな」


 顔を曇らせたかと思えば、すぐにまた輝くような笑顔を浮かべ、ココは草原に寝そべった。


「匂いがする。土の匂いじゃ。……いい匂いじゃ、おぬしも嗅いでみい」


 ココのそばに寄り、アレンは腰を下ろした。足の短い草をざっと撫で、その手を顔に寄せる。


「そうだな。最近は冒険で息つく間もなかったけど、いい匂いだよな」

「うむ。生きている匂いがする」

「魔王城から出るの初めてって言ってたな。城で何してたんだ?」


 愛おしそうに土に触れながら、ココは微笑む。


「勉強じゃ。この世界の事、魔族の事、人類の事、色々とな。王の器に相応しい者となるべく、ずっと勉強しておったわ」

「そうか、何か思ってたよりつまらなさそうだな」

「む。学ぶ事はつまらん事ではない。しかし、こうして本物の世界を感じるよりは、つまらんかもしれん」

「そういうもんか。俺は勉強とか全然してこなかったからな、よく分かんねえけど」


 そう言ってアレンは立ち上がり、ココに手を差し伸べた。


「ココがいつでも地上に来られるように、早く争いを止めないとな」

「うむ。その通りじゃ」


 掴んでいた土を離し、アレンの手を取り立ち上がった。

 黒いドレスに付いた土を払いつつ、ココは尋ねる。


「ところで、ここはどこなのじゃ? 行く宛ては決まっておるのか?」

「ああ。ここはゼニア王国の西の端だ。しばらく歩けば城下町があるけど、その前に知り合いの店がある。そこで一晩泊めてもらうつもりだ」

「そうか。ならば急ぐぞ。私にはまだのんびり世界を感じている資格などないのじゃ」

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