第15話 建物の名前を聴いてみた

早速辿り着きましたよ、建物に。特徴的な建物に。

当然のように門番が立っていますよ。


流れ的には話しかけないとダメな感じですかね?

あーやだやだ、ああいう堅そうな手合いは苦手なのよねーみたいなガーリィ?な感で通り抜けられないですかね。

さて、どうしましょうか。


良いことを思いつきました。

こう……手に収まる感じのいい大きさの瓦礫を見つけてですネ……?ですネ…です…

落ちてない。ダメだこれ。この街、ちょっと景観の美化に力入れ過ぎじゃない?

土を掘る隙すらないとは、徹底してる。


思いつかない。展開、展開はどこかに落ちてないですか。空からでもいいですよ?

足が疲れた、お腹すいた、地べたに直接座るのヤダ。どうしよう。

壁に寄りかかって誤魔化してもお腹が鳴っている気がして堪らないものがあります。

どうでもいいけれど、建物によりかかるとひんやりしていて悪くない心地です。


「おい、お前!怪しいやつだな。市庁舎の前で不審な行動は推奨されないぞ」

やだ、話しかけられた。無視しましょう。

「顔を逸らして追求から逃げようとするな。子供か?親はどこだ?」

親はなし、子はなし、天涯孤独の一人っ子ですよ。たぶん。知らないけれど。

「おい、何も答えないなら連れて行って庁舎内での取り調べをすることになるぞ」

「どなたがそれをされるんですか?」

「オレだ」

「それはイヤですね」

「オレも嫌だ。だから聞いたことには素直に答えるんだ」

どうしよう。会話を続けないといけない雰囲気になってしまった。失策だ。

とりあえず、考えて答えないと疑いの目を向けられたままになりそう。

「どうした、返事はないのか」

「あの、ゆっくり思考させてもらえませんか」

「何かを隠そうとしているな?ちょっとついてきてもらおうか」

あわ、あわわ……なんて引っ張られてる場合じゃない。どうしましょう。逃げましょう。そうしましょう。

「あ、コラ」



フフフ。我ながら完璧な作戦です。目的地が目の前にあるのに逃亡の必要がある。

それならば、目的地の方向に逃げれば良いのです。天才か私は?


何でしょうかね。この湧いてくる反骨精神は。あらゆるものに叛逆したい。そんな気持ちが止まらないのです。お腹が空いて野生にでも目覚めたのかしらんがどうなんでしょうか。

走るのたのしいな。もうずっと走り続けてやりましょうかね。風のように?空も飛んじゃいます?空を走る私……わるくないですね!




建物の中にたどり着きました。いやあ、長い道のりでしたね。まさか最後はあんな展開になるとは思いもしなかったですが、無事にハッピーエンドです。お疲れ様です。


「おい、聴いているのか?どこを観ているんだ?大丈夫か?」

「あーはい、私です。私ですよー。生きていますよ。たぶんもうすぐ寝ます」


捕まりました。足はやいじゃないですか。門番なのに足軽…なんちゃって?

個室に連れ込まれて尋問だなんて不名誉です。なえる。


「意味のある返事をしてくれないか?」

「大きなお世話さんです」

「まったく、ほんとうに世話だな。門の前に居るのがオレの役割なのに余計な仕事をさせてくれるよ、まったく」

「ほかに職員さんはいないんですか?」

「あいにく、この建物の周りに不審者なんてメッタにいないんでな。門番もほとんどお飾りなのさ。お前のような奴が居なければな」

「おしごとの意味を噛み締めることが出来るなんて幸福ですね」

「そうだな。はやく仕事が終わるともっと幸福だ。協力してくれないか?」

「とりあえず、話をする体力が尽きそうなので何か食べる物ないですか?」


「物乞い?」

「ちがいます」

「行き倒れ?」

「まだ違います」

「放浪者?」

「放浪……ですね」

「オレの飯で良ければ分けようか?」

「えっっと、それはどうでしょうか」

「腹が減ってるのではないのか?」

「何でも食べるとは言ってません」


「そうか、それなら、目の前で食べても問題ないか」

「それは、ちょっとひどくないですか?やめて」

「オレもお腹が減っているんだよ、いまは本来なら休憩時間だからな」

「ということは、あれですね?持久戦ってやつですね?」

「ご飯を食べる方向で話を付けたいんだが、どうだろうか」

「ダメです。私が空腹で、あなたも空腹。それでいいじゃないですか」

「不毛すぎる」



……釈放、解放?されました。彼はご飯を食べるそうです。これは、私の勝ちですね?やったーうれしい。


はい、別に嬉しくないですね。適当な返答をしながら取り調べの机に頬を擦り付けてゴロゴロしていたら、なんだか門番さんが優しい眼をし始めたのでおやおや?と思っていましたけれど、この街の人たちって全体的に優しいです。懲らしめてやろうとか、追いつめてやろうとかそういうことしないです。放置はするけれど。

これが噂の放置主義ですか?はい、違いますね。

放置を前提とした社会形成とは何ぞや?行為主体は誰なのでしょうか?賞味期限切れの食べ物も放置して置くような人たちとは仲良くなれそうにないです。


おなかすいた。


うーん、どうしよう。何しに来たんだっけ?そうだ、椅子を見に来たんだ。

あれ?でも私、取調室の中でいつに座ってなかった?あれ?


「取調室の椅子に座った、私!」


うん、あまり意味のある感じじゃないですね。これは違う。



門番さんの後ろ姿が見えますね。

ついて行ってみましょうかね。食堂とかあるかもしれませんし?

でも調理をしている様子の匂いとかしないんですよね。みなさんどこでご飯食べているのでしょうか?謎です。謎は推論を建てて実証しましょう。門番は何を食べるの!


いい感じのお弁当箱を出してきましたよあいつ。どこであけるんですかね。


入口まで持って行って、外で食べるのかな?


「なんだよ、ついてきたのか。どうした?食べたくなったのか?」

いりませーん、隣に立ってるだけでーす。特に意味はありませーん。

というか、あなた立ってお弁当を食べるんですね。奇特な人だ。

「なんか言えよ。黙ってとなりに立っててもわからんぞ」

あれですよ?私は食べたいとは言いませんが、もし仮に、仮にですが、私の口の中にお弁当の中身が飛び込んできたら、どうでしょうか?

咀嚼するしか選択肢がないのではないでしょうか?必然では?

そして、咀嚼をしたならばそれを飲み込むこともやぶさかではないのでは?

「これ、うまいやつ。自信あるんだが」

わるくないです。起きてから初の食事、もとい咀嚼です。歯ごたえが、絶妙に。

「なんていうか、すごいいい笑顔するよな、お前。楽しくなってくるわ」

「いま私の事をかわいいって言いませんでしたか?」

「かわいいとは言ってないが、言ってほしいなら言ってやろうか?」

「ぜひぜひ、お願いします」

「かわいい奴め」

褒められました。嫌な奴だけど良いやつです。こいつ。

「あ、頭に触るのはやめてください。拒否します」

「繊細なところがあるやつだな」

「嫌なものは嫌なので」

「味の感想をまだ聞いていないが、いつになる?」

「たまたま私の口の中に入ってきただけの食べ物の感想に感想を返す必要がありますか?ないですよね」

「同じ味で良ければ、夜にも食わせてやっても良いと考えていたんだが必要ないようだな。残念だ」

「美味しかったです!機会があればまた食べたいなって思います」

「お前がどういうやつが理解できてきた気がするぞ」


「今後ともお付き合いいただければと」

「ほどほどにな。ところで」

「はい」

「お前はここに何しに来たんだ?目的は」

「えっ、あなたのお弁当を食べに来たんですよ」

「それは苦しすぎる」


――あれ?シナリオ回避ルート入ってない?なに門番と仲良さげになってんだ?

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