第14話 柔らかい布を手に入れた。

ぬのです。有態に言って何の変哲もないただの布です。

あれですね。これ、起きた時に包まってたやつですね。もしかして廃棄品?

いいえ、親切心ですね!間違いない。まさか素っ裸で街路に放り出す理不尽さなんてあるわけないですよね。イン・ザ・ストリート・トゥ・アベニューですよ。

石畳の舗装された道は格別の感があるものですね?裸足ならなおさらです。

ああ、冷たいはずの石の床が暖かい太陽の熱を強かに捕えて離さない。強い子です。


私の境遇には太陽があるのでしょうか?暗黒時代ですか?曇天はいつ晴れますか?

風でも吹かないですかね。雲なんて吹き飛んでしまえばいい。


さて、抜け目ない私は考え事をしてる間に街路を歩いて開けた広場までたどり着きましたよ。何か新展開とかないんですか?……ないですね。座る場所すらないですね。

この街の住人は街中を歩いていて座りたくなるほど脚がくたくたになったらどうするんでしょうか?舗装の上に寝転ぶとか?

あっわかりました。あれですね、自分専用の折り畳みの椅子を持ち歩いてるんですね?きっとそうに違いない。

推測が成り立ったら次にやることは決まっています。実証してみましょう。

ちょうどよく人通りが多いです。


向こうから歩いてくるふくよかめの女性に声をかけてみましょう。

「ヘイ!そこの住民!あなたは椅子を持っていますね?」

「なによ、あなた。変な格好してぶしつけね。」

ですよね。しつれいな奴でした私。

「まあ、元気がいいから答えてあげる。ほら、顔を上げて!しょんぼりしないで。シャンとしなさいな」

やさしい女性でした。ありがとう、やさしいおばさん。眼を合わせると表情がますます優しくなっていきますね。何ですか?母性の塊か何かの方ですか?


「わたしの椅子は向こうの建物の中にあるわ。見たいのなら受付に行って予約しなさいな。わかる?時間はまもるのよ?お願いね」

「ありがとうございます。優しい人」

「あら、お上手ね。こちらこそありがとう」

後姿を見送りながら歩く姿を観ていると、颯爽としていてイケてますね。初見でふくよかなおばさんとか心の中で思ったのを訂正しておきます。


まさか、この街の人間がそこまで椅子を大事にしているとは思いませんでした。

きっとご自慢の椅子なんですね。展示しているうえに、観るのに予約が必要だなんてビックリです。はずかしくないんですかね?


とにかく行ってみましょう。

実証のためのサンプル数を増やすという選択肢もありますが、せっかくなので物見しましょう、そうしましょう。

雰囲気的に、イン・ザ・チェア・フロム・カレントライン……椅子を見つけるのすら綱渡りですね。意味あってるかどうかは気にしない。

街の中ではひときわ特徴的な外見をしているのだから辿り着くのは簡単ですね。

こう、陰影が?丸いような、尖っているような?全体的に高さがありつつ他の建物との間に広い空間をとっている感じ?敷地が四角いのも何か意匠があるのでしょうか。


――建物の入り口に門番が居る。おそらく次の話し相手になるだろう。

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