第11話 突然の決戦

大地のすべてを一点に集めて生産した光の奔流、白い世界の中で一人だった


「なんで私、まだ意識が続いているんですか」

ありえないです、からだどこですか、いしきだけで漂っているとかここは永遠だったりするんですか?ありえない。ありえない。ありえない。

私はおいしいご飯を食べたかっただけなのに。


……あっいろいろあきらめたらなんだかココが居心地のいい場所のような気がしてきました。そういえば、最初に意識を手に入れた時にいた場所に似ているような?

もしかして、ここが私に与えられた楽園なのでは?何も食べる必要もないし、太陽がなくても暖かい様な気がします。別に苦しい事なんて何もありません。問題ないのでは?問題ありませんね。

まぶたを閉じられなくても平気です。意識をゆっくりと世界に向ければ光の中でもねているのと変わりません。ゆめごこちって奴です。


「じゃあおやすみなさい」


――寝るな。戦ってくれ。頼むから。


「誰ですかうるさいですね」

――オレの事はいいから、現実と戦え。

「眠いんですけどー」

――頼むから。

「戦ったら何かくれるんですかー?くれないですよね。私の安楽を邪魔しないでください。私はやるだけやったんですよ」

――まだやってないことがあるぞ。

「ないですよー。ないない。しゅーりょー。おやすみー」

――戦わないと戦うまでここで騒ぐぞ?

「別にいいですよー。そんなものは慣れてしまえば効果むこーですよ」

――根気で勝負しようってのか、良いだろう

「私に根気なんてないですよ。怠惰が私の今の行動原理です。戦いは大きい方が勝つし、戦力を温存した方が大きいです。だから私には勝てない。証明終了です。」

――戦えばおいしいご飯が、

「どれくらい美味しいんですか」

――えっ、と想像を超えるくらい…だろうな

「くわしく」

――とりあえず2つの道がある。簡単だけど時間がかかるのと、難しいけど何度も挑めるのとどっちを選びたい?

「その両者は比較不能、交換不可です。美味しいご飯に短い時間でたどり着ける方でお願いします」

――じゃあ後者な。やり方を教えるからよく聴けよ。

「ご飯をはやく用意してください」

――マジ貪欲食欲魔人だぜ

「はやくはやく」

――まずこの世界の創造者を呼び出す。

「それで?」

――出来るのなら、ぶっ倒して力を奪う、できなければからでこちらの要求を飲ませる。

「アイツ生きてんですか。コワイッ!危うくこの世界に二人きりになるところでした。あなたのおかげで回避されましたね。よかったよかった」

――まあいい。やり方は知ってるな。あっちは当然先回りして対策をしてくる。勝負は一瞬だ。眼に入った瞬間に殴りぬけろ。

「やーやーやー鬨の声ときのこえをあげてやりましょう」

――おうおう。その意気だ。やってやれ。


では万難を排ばんなんをはいし、大きな声で行きましょう。


「黒幕さん!出番ですよ!」


世界が暗転した。白から黒へ段階、隙間なく一瞬で。

気が付いたときに目の前にあったのは調度品…?室内なのかな?

中央にあるあれ、なんですか


「王座だよ。カッコイイだろう?」

声に出ていたらしい。

あと、カッコよくないです趣味悪いです。部屋に飾っても毎日磨いてあげなきゃすぐに汚れそうでもうちょっと簡素な造りの方が好きです。

「どうだい、様になるだろう?」

何ですかこいつ。椅子に座ったくらいで人間が偉そうに見えるわけないじゃないですか。王様気取りなら杖と王冠も用意しなさいな。あと旗と儀仗兵もですよ。

「そういうのはこれから作るさ。君のおかげでそうなる」

私何かしましたっけ?感謝をするなら対価をください。

「本当にご苦労様。君がこの世界に存在する理由はたった一つだ。キャラクターの造形作成のため、それだけ。それももう終わった」

説明を要求します。噛み砕いて?

「君をモデルとしたキャラクターを軸にしてこの世界を再構成する。次に出来上がるのは人間がいる世界になるだろう」

人間居なかったんですかあの世界は。みんな直線の集まりでデクみたいな人たちだなと思っていましたけれど。……でも、それなりに人の形をしていたような?見つめると目を逸らしてましたし。

「まあとにかく、だ。ワタシの世界に足りないモノを君が持ってきてくれたんだ」

そうですか、感謝してください。なにかください。あと、なんか私、やっぱりこれ声が出ていないですよね?しかも床に張り付けにされたみたいに手足も動かないんですがどうなっているんですか?

「結界、だよ。ここはワタシの世界だ。ルールは自由自在であって当然だろう」

――嘘です、本当に自由自在なら私がここにいる意味がない。

「……そうだな」

伊達に世界を壊してませんよ。アナタの弱点を見抜きました!

「……ほう。ためしてみるといい」


手を伸ばす。意識する。手が無くないですか?

「君の実体は世界の崩壊とともに消滅したよ、で弱点がなんだって?」

ダメじゃないですか。手がなきゃ殴れない。なぐれない…なぐれない?ほんとうに?

「まったくお笑いだな。君がつかんだと思ったワタシの弱点はワタシにとっては対策可能で完封可能なものでしかないんだ。この世界においてワタシこそが完全だ」

ほんとうに?ほんとうにそうかな?なら、なぜここに私はいる?

「さて、終わりの時間だ。君をあるべき場所に還してワタシはワタシの世界を創る」

そうだ、それだ。目的だ。それさえあればいい。過程?関係ある?結果?必要ある?

ないよ。そんなものは必要じゃない。目的だけがあればいい。とりあえずさしあたっては目の前の奴を殴るそれが目的、それ以外は関係ない。


「ははは、無駄無駄。思考だけで実態が無ければ何一つ動かせはしないよ」

くやしい。泣きたい。涙とか出ないけど。

「いいね。もっと見せてよ。君を観ているとワタシが創る世界の可能性が広がっていくかのような気分だ。わるくない、もっとだ。」

泣き顔を想像して悦に入るとか俗にいう変態さんですか?

「変態にさんを付けるなよ気持ち悪いな」

あれ?意外に反応がいいですね?変態さん?

「やめろ」

あれあれー?変態さんは変態さんって呼ばれるのがそんなに不都合なんですかー?

「やめろって言ってるだろ!」

やーいやーい。へんたーい。お前の性癖108ッつー。やーい。

「クソッなんだってんだよ!」

もしかして、このひと興奮してないですか?きもちわるいです。

「あっいまのもう一回やって」

…!?

「たのむよ、もういっかい。その、本心から嫌悪する感じで」

きもちわるいですよ!

「あああああああ、これがワタシの求めていた刺激」

うーわ、なんかアタリ引いちゃったみたいです。都合がいいので続けましょう。

「はやくしろよー」

要求するなら対価をくださいよ。

「マジかよベイビー。何が欲しいんだ」

まずは何が起こっているのか説明してください。

「ワタシの能力の影響下にあるものは、ワタシの力によって性質がネジ曲がる様になっている。君はワタシの意識を曲げた。だからワタシの意識したように影響下にある世界が曲がった。そういう能力」

全能の神様?でも全知じゃないですね。

「全知じゃないね」

とりあえず殴らせてください。

「それは断る」

じゃあ舐めさせてください。

「えっ、うわ、やめろくすぐったい」

ぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろ


とりあえず触るところまでは来ました。次です。

「無理。むりむりむり、くすぐったい、耐えられない。止めて、やめて」

ぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろ

しまった、舐めるのに集中してたら次のことが出来ない。どうしましょう。

「やめるんだ!次は、そんな、そんなこと」


……なんでしょう。腕ひしぎ?かけてます私。趣味がおかしくないですかこのひと。

――こいつの趣味が判らん。

あっさっきぶりです。だれかさん。元気してた?

――ああ、まあ勝負決まったみたいだから加勢しに来た。

とりあえず何しましょう?これこっちの勝ちですよね?褒めてください。

――えらいえらい。

わーい。エビぞり!

――まあ、はやいうちにやっちまおう。勝ちは活かさなきゃな。

なにしたらいいんですか?

――還りたい場所をイメージして、願え。それだけだ。

イメージ…?還りたい場所…ないですね。行きたい場所はありますが。

――じゃあそれでいい。強く空想しろ。そうすればすべてうまく行く。足りない分はこっちで調整する。

わかりました。じゃあさよならですね。また逢う日まで!

――未来へ向けて進行だ、ぜ。


想像するのは、暖かい場所。私にやさしい場所。ご飯がおいしい場所。ゴワゴワじゃない衣服があって会話できる人が居て、頑丈なお家があって、風があって光があって、そんな場所に私は行きたい。


力が収束していく、世界が崩壊を眺めていた時のあの感覚。

そうか、この部屋だったんだ足りなかったのは。この部屋ひとつ分だけで私が崩壊させた世界と同じくらいの力があるような気がする。隠していたんだ。いじわるな奴。

でも、まあいいでしょう。苦手なことを頑張って私に合わせた世界を創ろうとしてくれたのですから。少しは好感を持っておきましょう。


「もうちょっとこの世界に留まっとかないかい?」

「良いですよ」

――あっ?

「あっ」

「なんですか?あれっ?」




――世界が最後の崩壊を迎え、決戦の時は終了した。何やってんだこいつら。

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