夏祭り(流々様)
夏というのは嫌なもんだ。毎年去年より暑い気がして、嫌になる。俺も夏祭りが無ければ心底嫌いになっていただろうな。だが、今年も夏祭りがある。あれが来ると、爺さん達は相変わらず仕事が手に付かなくなる。まあ、俺もそうなんだがな。
俺も小さい頃から祭りは好きだった。そこは母さんの影響かな。浴衣も未だに三、四枚持っている。
今年は何と、慎二君が内の睦―祭りを取り締まる自治会―に入ったんだ。あの、新しく建ったマンションに入った奴だ。今までは縁日と言えば、水飴だのリンゴ飴だの位だったんらしいが、神輿を担いで見たい、なんて動機で入ってきた。俺は爺さん達の反応が気がかりだったんだが、あの人達は快く迎え入れた。
一ヶ月前の恒例の打ち合わせでもな、慎二君は加藤さんのありがたーいお言葉を熱心にメモしていた。あの爺さんも担ぐときは「せいやー」じゃなくて、「わっしょい」だとか、毎年同じことを言うんだから、その内自然に覚えるのにな。もう前線からは身を引いてるが、相談役を喜々とこなして、ありゃあと一〇年は顔を出すな。
蔵出しの日は、朝の五時に集合と成った。慎二君も朝の七時半まで顔を出せると言うもんだから、爺さん達も笑顔よ。俺にはどうも楽が出来ると喜んでる様にしか見えなかったがな。
蔵出し当日も慎二君は実に頑張ってくれた。ウマとかの基礎用語すら、知らなかったんだがな、それでも、こっちが説明したら、先陣切って働いてたよ。俺も爺さん達も楽させてもらった。
神輿巡行の当日もな、慎二君は大活躍だったよ。神輿を担ぐ同好会の連中は荒っぽくていかんが、慎二君がその仲裁を頑張ってくれた。ありゃ、仲裁の才能があるぜ。いつもニコニコしてるんだが、あの顔で、仲裁にはいると、兄ちゃん達も文句が言えねぇのさ。睦も貴重な人材を取ったもんだ。
終盤に、睦が同好会の連中を手伝う時も、慎二君は活躍した。一九〇も背があるんだから、腰に随分と負担がいった様だったがな。それでも、周りの「せいやー」の中で、一人だけ「わっしょい、わっしょい」と、楽しそうだった。
鉢洗いでも慎二君が話題になった。あの「わっしょい」にも加藤さんからも、褒められてたよ。
俺も、まだ六八だ。慎二君にも負けていられねぇな。
こんな感じで、俺も楽しくやっているから。こりゃ、中々お前の元へいけねぇな。ま、線香で我慢してくれや。
短編リライト 芥流水 @noname
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