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 藤田まことが亡くなった。中村主水が死んだのだ。

 芸能人の訃報に涙したのは藤田まことが初めてだった。必殺仕事人2010では回想シーンでの出演となった。中村主水は配置換えになり江戸を去ったことになっている。

 最近では年明けのスペシャル放送のみになった必殺仕事人シリーズには、シリーズ初期からの音楽が多く使われている。主水の仕事のシーンで使われた音楽は東山紀之演じる渡辺小五郎が受け継ぐ。さらに主水が首に布を巻くスタイルも受け継がれた。


 仕事人は晴らせぬ恨みを晴らすために銭を受け取り、「仕事」をする。仕事をする前に必ず銭を受け取るという掟があり、私はそれが好きだった。

 仕事人は銭をもらって人を殺した時点で地獄行きが決まっているというのが主水の考え方であった。

 必殺仕事人シリーズでは物語がある程度パターン化していくのだが、主水の仕事も段々と動きが少なくなっていく。刀を振るよりも脇差で敵の死角から刺し殺すことが多くなる。

 それに伴って仕事をする時のセリフも減っていったように思う。それはそれでいい。しかし中村主水の曲が流れる中、「閻魔によろしくな」、「俺もそのうち行くからよ」と低く濡れた声で言われたときには胸が震えた。


 必殺シリーズではオープニングで前口上がある。どの口上も、世の厳しさを嘆きながら、どうしても許せない輩もいる、と小さな炎が燃えている。

 歴代の前口上はあきらめるのはやめなさい、その恨みきっと晴らして見せましょうというものが多い。

 溜息が出たのは2012年から使われている前口上で、「あの世の地獄とこの世の地獄、どちらも地獄にかわりなし。おやおや、どっかで誰かが泣いてるかい。そうかいそうかい、そういうあんたにゃ他人事か。云わぬが花とは申されど、ひとこと云わせていただきます。あんたが見るか、おいらが見るか。誰かが地獄を見なけりゃ終われねえ。善男善女にゃ無縁の話で御座います」と、市原悦子が語るのである。怖い。良い。

 あの世の地獄とこの世の地獄、どちらも地獄に変わりなしというのが特に気に入った。このように細かなところまでシリーズの良さを引き継いでいるのが最近のスペシャル版である。

 まさかと思ったのが、必殺仕事人2009の連続ドラマと2016年のスペシャルでレギュラー陣に殉職者がでたことである。2016で死んだのは仕事人ではなかったが、主人公と深い関わりのある人物だった。

 必殺シリーズでは時々殉職者が出る。弱みにつけ込まれたり、仕事の最中のことであったり様々だ。しかしまさかそれが新しいシリーズで行われるとは思っていなかったのである。そのあたりも制作側の気合や、歴代作品へのリスペクトが感じられた。

 新しいシリーズに大きな不満はない。しかし一つだけ望みたいのは、海をバックにしている映像は海で撮ってくれということくらいだ。難しいのは分かっている。


 藤田まことは『剣客商売』という作品も残した。私は未だに観られない。必殺シリーズをコンプリートしてから観ようということにしている。寂しい。

 必殺シリーズはBSなどで再放送している。藤田まことは映像の中で生きている。

 世の中に嫌味や文句を垂れながら、晴らせぬ恨みを晴らすために銭を受け取る。中村主水がゆく。




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