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 日暮れの帰り道は滑走路に似ている。縁石の灯りが駅までの一本道を照らす。数年前に設置されたときいた。

 歩道がなかった頃、ある生徒が車に轢かれて翌朝まで見つからなかった。仲の良い友人と2人で歩いていた。2人の立ち位置はいつも決まっていたが、なぜかその日だけ左右反対で歩いていたという。私は縁石の灯りを見ると、その話をした体育教師の目尻の皺を思い出す。


 気の合う人間というのは、期間や関係性だけでは決めつけられない。

 心臓が雷にうたれたようにある人へ好意を持ち始めることがある。それが麻薬である。脳を快感で浸し、私は手の届くところにいる大切にすべき人間を悪気もなく視界から外す。

 期間や関係性が要求してくるのは心の一定部分をズブズブに溶かしてそれなりの見栄えの入れ物に注ぐことだが、世間ではそれが〝血〟や〝絆〟以外にも〝愛〟など、様々な名で呼ばれている。

 私は他人に興味がないフリをするのが好きである。さらに言えば、その態度を気に入る人間が特に好きである。彼らが心の底で好むものが何なのかについては全く興味がない。

 私はどのような人間にも興味があるし、道すがらすれ違う人間にも思いを馳せる。苦しみや喜びを知りたい。知りたくて知りたくて仕方がないので、電車ではイヤホンをして眠るように努めている。


 学年一の美少女など、興味がわかないはずがない。

 彼女と初めて話したのは席替えで私の後ろに座ったときである。私の隣には彼女の恋人が座り居心地が悪かったどころか、この席で起こるかもしれない出会いに心が躍ったのだった。

 恋人のことなどどうでもよかった。彼女の長い睫毛が弧を描いて、きれいな歯並びが見える瞬間が楽しい。


「あれ、いつも一人なの」

「みんな歩くのが遅くてイライラするの。あたし、バイトに行かなきゃいけないから。ちょうどいいかご、見つけちゃった」

 みんなというのはSNSに映える友人のことである。一緒にスカートを折り上げ、写真を撮りあう友人のことである。もちろん彼女はその中でも楽しそうで輝いている。

 了承をとる前に彼女はスクールバッグを自転車のかごに載せた。載せた後で、「いい?」とほんの少し不安そうな顔をする。

「気にしないで」

 そのようにして私は彼女の帰り道のお供をする友人になったのだ。


 学校では互いに別の友人たちと過ごし、放課後になると並んで校舎を出る。彼女は早歩きで、私はバランスをとりながらペダルを漕ぐ。

 その日あったことを振り返ったり、過去を振り返ったり、いわば大げさな反省会だった。


 街灯のない街の頭上に星が光る。今日は珍しく教室でだらけてから校舎を出た。

「あたしが悩んでると、可愛いから大丈夫だよ、可愛いから愛されてるにきまってるよ、可愛いからふられるわけないよって言うの」

「あぁ、そうなの」

「いま、可愛いとか、関係あるかな!って思うの。誰だって、悩むじゃん」

「そうだね」

 そして珍しく彼女は怒っている。顔は暗くてよく見えないが、声は湿っている。

「だから話したくないのに、話さないとヒミツ主義だとか、誰も信用してないとか」

 人の話を聞く方が好きか、自分の話をする方が好きか。

 好みの問題だが、どちらも難しい作業だという点で共通している。好きではないが得意であるということもある。


 その人を知りたいという気持ち。自分のことを知ってほしいという気持ち。どちらも美しく醜い面がある。

「悩みは、その人だけのものなのにね」

 彼女の頷く声と、鼻水をすする音。かわいい。

 昼に焼かれたコンクリートの臭いが、夜の暗闇に漂っている。

 小さな滑走路が伸びてゆく。2キロメートル。



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