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抹茶とお菓子の組み合わせはすばらしい。細かいことは置いておいて、私は千利休を尊敬している。
大所帯の茶道部は畳が狭いので交代制で部活動を行う。休憩時間になると、教室で本を読んだ。
誰もいない教室は学校生活では珍しい。静かで、思い出す。私たちは二度と繰り返さない、限りある時間の中にいるのだ。
活動日の水曜。今日も休憩に入り教室へ足を運んだ。
しかし今回は先客がいるようである。
サッカー部のクラスメイトが2人、一人がもう一人の膝に座り、後ろから抱かれている。学校の中ではそこまで珍しい光景でもないじゃれ合いだと思いドアを開けた。
「お疲れ。サッカー部、今日早いね」
「…え、シカト?」
私は質問に顔で問い返す。シカトしているつもりなどない。
「ほかに誰もいない教室で、こんな格好してたら気になるだろ」
膝に乗っている方が、やや挑戦的に言う。乗っかられている方は少し焦っている。この2人の感情的な一面を初めて見たので驚いた。特別親しい間柄でないが、少なくとも教室では見たことがない。
気になるところを強いて言えば、そんなことを言うなら離れればいいのにと思う。
「いつもそのくらいの距離感だよね」
「あやしいとか思わねぇの」
最近、この2人の関係を面白おかしく疑っている人たちがいるのは知っている。何かを言われたのか、何かをされたのかは分からないが、食ってかかってくるわりに覇気がない。
私は一体何を求められているのだろう。
「何を気にしてるのか、分からないけど」
「……」
「何か悪いことでもしたの」
黙ってうつむいた。あだ名はサクという。
「ごめん、何か用があったんじゃないの」
体が大きい方はリョウ。
「茶道部の休憩でね、いつも本を読みに戻ってるんだよ」
「うわ、邪魔してごめん」
サクは未だリョウの膝から離れない。なんだ、結構可愛いところがあるのね。
「…俺たち、付き合ってるんだけど」
「うん」
「誰にも言えなくて」
「うん」
「別に言わなくたっていいんだけど、なんだか怖くて。人になんていわれてもいいと思ってたはずなのに、でも…怖いんだ」
「うん」
「なんか言えよぉ」
サクは立ち上がって眉を寄せた。
真面目に聞いていたつもりなのだが、サクに泣かれてしまった。彼の泣き顔に胸の奥をつかまれる。ここは心配するところだと思うのだが、リョウは緩む頬を誤魔化せていない。
なぜ好きなのかなどという無粋なことをたずねなくてもわかる。
「リョウは何も考えてなさそうだよ」
「そうなんだよぉ、意味わかんねぇんだわ」
「え、俺?ごめんサク」
「俺ばっかり気にしてさぁ」
リョウの態度ではサクの涙は止まらないようだ。私はサクにリョウの膝に座りなおすように言い、自分は向かいに座った。
「手、触っても?」
サクは素直に手を預ける。私のより少し大きい手を握る。
「サクが悩んでること、全部は分かれないと思う」
「うん」
「好きになる人の性別の違いは、血液型とか、そういうことに似てると思う」
「うん」
「誰だって可能性のあることだと思う」
「うん」
「今、この世界がただ祝福してくれないのも事実だと思う」
「うん」
「でも、私は人を好きになれて、好かれてよかったねって言いたい」
「うん」
「よかったね」
「うん」
「なんか言ってよ」
「だって」
とてもきれいな涙だと思った。ただ誰かのために、そして自分の心のために泣ける姿が、どうにも眩しく見えた。
高校を卒業し、2人の家族に会いについていった。両家とも、とても良い家族だ。両親たちには見守ってくれてありがとう、と泣かれた。意外に人は涙もろいのである。
二人が喧嘩をしてこじれてしまった時は、私が相手への言伝を預かったり、酔う手伝いをしたりもする。
さすがに一緒にディズニーランドについてきてくれという頼みは断った。
「夢の国だから、心配しないで行ってきなよ」
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