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 2年半付き合っている人のことを「結婚はできないと思う」と切り刻んでいる目の前の連れ。この池袋か、はたまた恋人の住む我孫子か、現住所の所沢で刺されて死にますよと、私は会う度にへらへら笑いながら言っている。

 運ばれてきたパエリアを取り分けていく。好きなだけ自分で取ってくれという意味を込めて大きな取り分け用のスプーンを渡した。小皿を右手にざっくざっくと盛りつけていき、「ん」と手渡される。あら私の分でしたのねありがとうございます。

 しかしその後も私の分は増やされ続けるので小皿を逃がす。そうするとさきほど食べたお通しのポテトサラダの上に重ねていく。最後に殻付きの海老を残すことなく私に押し付けた。

「もういらないって言ってるでしょう」

「うるせぇ、食いやがれ」

 そして自身は食べやすいイカを食べる。メンヘラ製造機と自称するこの連れの魅力は何であるのか、知り合って丸5年で初めて分かったような気がした。

 思い出すのに時間がかかった。小学生から中学生にかけてもてはやされる人は、いたずら好き、活発、足が速い、スポーツ万能、そして美形。

 しかし人はだんだん知識や経験を身につけ、あるときから「人は見た目か性格か」と議論をし始める。そして苦悩し、疲労を感じはじめる。

 そこで登場してくるのが、はっきりとした二重と整った鼻筋と薄い唇の身長そこそこの運動部経験のある細マッチョである。いやいや、我々はもう学んだのです。人は見た目で判断してはいけないと。あらそんな自戒をしていらっしゃるんですか、そうですか。

 そんなものをぶち壊しにかかるのは、ほんの少しのいたずら心や隠れた優しさだったのです。

 人は成長したと言っても所詮人である。

 道徳心や倫理の間からのぞくちょっとしたいたずら心。

 「お前マスカラ変えただろ。ダマがない。マスカラの要らない俺の長い睫毛が羨ましいだろう」と友人をからかった2週間後告白されたというエピソードがある。

 ただの自慢のつもりが、普段から見守ってくれていると勘違いをさせてしまったそう。おそらく、心頭滅却されている状態であれば、そのような自慢話など蹴り飛ばすところを、普段から様々なことを学び、葛藤し疲れているところに現れた、青春の面影や片鱗をのぞかせる人。あなたには効果てきめんだったのですねと肩を叩いてあげたい。

 なるほど、と私は勝手に納得し、連れをじっくり見る。相変わらずの美形だ。

 恋人に「好き」と言われると吐き気がするという話になり、お互いに頷いた。じゃあお前はどうしてほしいんだ、何もしなければいいのか、お前の言うことだけを聞いていればいいのか、と投げやりな質問を受け、「AIぃ~~」と唸り返したところ、芸人のノブのツッコミに似ていると笑い始めた。私もつられて笑い、二人して止まらなくなった。

「そう、こういう感じでいいんだよな、俺は。昔からお前は他の奴と違うと思ってたよ」

 そんなことを言うから、と言いかけてやめた。もしかしたら自分でも分かっているのかもしれないと思った。もしや自分の生き方と世間のギャップに悩んでいるのかもしれない、などというところまで考えてしまう場合は、心頭滅却の状態ではない。

 酔いをさますためにはしごしたファミレスで、連れは頼んだパンケーキを半ば無理やり食べていた。私は甘いものが苦手だと散々言っているのに、いつまでも覚えないのだ。

 私はコーヒーを啜りながら、閉店まで連れの話をきいていた。

「俺も、そのことしか考えられないとか、そんな風に人を好きになってみたいとは思ってんだよ」

 閉店間際、クリームを口の端につけながら、確か5歳年上の連れが呟く。

「そうですね。クリームつけて言うには少し間抜けですけど」

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