そうか、これが(原著:新吉さん)

「だ め だ」


 文明社会の行き着く先は、滅亡。

 世の中、便利になること自体、悪くはない。

 文明の利器を頼るな、そこまでは云ってない。

 でも、過度な行き過ぎは、害毒。

 俺は、そう、思うんだよね。


 ヒトは、猿から進化したんだぜ?


 何もないところから。

 ゆっくりと時間をかけ、自然に学び、頭をフル回転させ、見知らぬ大地を往来し、徐々に、しかし、確実に、進化したんだ。

 自らの足で歩き、学ぶ。

 猿ですら出来たこと、実に簡単なこと。


 それが今はどうだい?


 便利過ぎて、考えなくなっている、歩かなくなっている。

 歩みを止めた時、ヒトは駄目になる。

 これはもう、退化、と言っても過言ではない。

 そう、思うんだよね、俺は。


 このままじゃ、人類は滅亡しちまう。

 だからこそ、俺は人類滅亡から救う為、動き出す。

 世界中を巡り、見たもの、聞いたもの、知ったもの、触れ合ったもの、その全てから学び取り、再度、人間の進化を誘う。

 一歩一歩、確実に、着実に、堅実に。

 猿からヒトへ、そして、ヒトは更なる進化を遂げ、別の生命なにかへ。

 その過程、その変化の兆しを、俺は自らの足で見付ける。


 それこそ、この星の未来を担う、霊長たるものの運命さだめ


 俺の救世主伝説ぼうけんは、今、はじまる!



   ※※※ 【 序章 ☆ 旅立ち 】 ※※※



 まずは、ここ。

 俺のウチから。


 幾らデカイことを云ったところで、自分の足下さえ分からんようじゃ話にならない。

 どれ程、壮大なRPGだって、まずは必ず“”から始まる。

 ここからスタートし、やがて、魔王を倒し、勇者となる。

 人類を救う、ってのは、そういうことだ。


 俺にとってのは、このきったねー俺の部屋から、だ。

 学ぶ、ってのは、何も難しいもんじゃない。

 身近なところからだって始められる。

 いきなり背伸びしたって仕方ない。

 世界を飛び回る前に、まずは、俺の部屋自体、世界の一部だってことを理解する。


 さあ――


 いざ、冒険の舞台へ。



――おこた



 おこた、って知ってっか?


 ――正式名称、炬燵こたつ

 床や畳の上に置いた枠組み、まぁ、テーブルな訳なんだが、こいつの中に熱源をブチ込み、布団などで覆い外界から遮断、局所空間を暖かくする暖房器具。

 室内全てを暖めるんじゃなく、テーブル内、その布団の中のみを暖かく保つ。

 こいつに足を突っ込めば、そのぬくさのお蔭で暖をとることが出来るって寸法。


 こいつは、、だ!


 寒さが堪える時期、こいつに足を突っ込むと、もう立ち上がることさえしたくなくなる。

 布団で覆う、ってのがミソだ。

 ただ、足を突っ込むだけじゃなく、この布団にもぐる、って行為がこいつの魅力を増している。



――足を突っ込む



 足を突っ込む、って知ってっか?


 特定のなにかに関係、関与すること。

 首を突っ込む、ってのに似ているが、こちらはもっと軽い感じ。

 足を突っ込む、ってのは、もう少し深い世界や業界なんかに関与することを意味する。

 つまり、ある程度の“覚悟”が必要だってことだ。


 不用意に足を突っ込むなんてことは、、だ!


 その世界、業界で生き抜く覚悟を決めて歩む、それが大事。

 すぐに足を洗っちまうような、柔な覚悟で足突っ込むようじゃアカンわな。

 まぁ、ひとえに駄目よ、ダメ!



――足を洗う



 足を洗う、って知ってっか?


 元々は仏教用語。

 修行に順じ、裸足はだしで外界を歩き回り、いざ、寺に戻った時、汚れた足を洗い清め入室する。

 本来は、俗世の煩悩を洗い清める意味で使われ、転じて、悪事や悪業を止め、生業に就く、要は堅気かたぎになる意。

 今では、悪業、生業に無関係に、今ある職を辞す場合にも使われる。


 これは、、だ!


 足を洗うこと自体が、じゃない。

 足を洗わにゃならんような真似をするのが駄目。

 足を洗う必要性は、元来どこにあったのか、っつ~根本について考えにゃならんよ。



 どうよ?


 たったコレだけで色々学べる。


 俺は自宅から、自室から、そもそも炬燵から、一歩も出ていないのに、もうコレだけ学んだ。

 人間の可能性っつーのは、実に素晴らしい。

 分かるだろ?



 ここで1つの真理に辿り着く。


 歩まずとも、学ぶことが出来る、と。


 猿は所詮、猿。

 やつら、エテ公は所詮、獣。

 歩かにゃ学べん、畜生の類。

 俺は歩まずとも学べる。

 これがヒトの叡智。


 ――え?


 炬燵から出たくないだけじゃないかって?


 馬鹿にしないでもらいたい。


 俺は炬燵に足を突っ込んだ。

 相応の覚悟をもって。

 それを、おいそれと足を洗えるはず、なかろう?

 そもそも、炬燵の中に突っ込んだ足を、どうやって洗えっつー話だ。


 あのな~?


 俺は、文明の利器に負けたんじゃーない。


 俺が負けたのは、冬の寒さ。

 季節、だ。

 季節っていう大自然の前には、人間なんて矮小な存在。

 所詮、生命なんてものは、大自然の前では無力。


 それに、俺は、いつ炬燵から出るか、ってことさえ分かっている。



 ――春先。


 暖かくなれば、ごく自然とココから出る。

 これぞ、自然の摂理。


 その時こそ、I can Fly!


 いや、ハエじゃなくて。

 飛び立つんだよ、俺は!


 ただ、今はちょっとだけ、時期が悪い。


 俺、悪くない。



 ――…



「そうか、

    これが――


       ――ダメ

          、なのか」


 分かったぞ!


 俺が、

 俺が自身が、



「だ め だ」

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