第4部 バッテリー

 この瞬間の空気がある。

 周囲は熱気と応援が凄い。


「…………」

「…………」


 目で語り合う。

 この一球で全てが変わる。


「…………」

「…………」


 俺は構える。

 アイツは首を振る。


「…………」

「…………」


 試合は読み合いだ。

 相手の動きを予想する。

 これまでの動きを読み返すとここがポイントだ。


「ふぅー」


 ひと息つく。

 一度深呼吸しなければやってられない。


「…………」


 アイツは一人そこに立つ。

 この試合が始まってから変わらない目。

 それに俺は付いていく。


「…………」

「…………」


 アイツが首を縦に振る。

 ここか、ここに投げる。


「…………(来い!)」


 俺は覚悟を決める。


「…………」


 アイツは大きく振りかぶる、俺の構える手の中に入れるために。


 ビューン


 目の前に大きく振られるバッドが風をきる。


「…………イィ」


 俺の手に痛みと、丸いものを感じる。

 捕ったんだ。捕れたんだ。

 俺は喜ぶ。

 グローブの中にあるものを見て、前を見る。

 そこには地面に落ちたキャップを拾い上げるアイツの姿。


「うぉー!」


 誰が上げたかわからない雄叫びで決まる。

 この試合に俺たちは勝った。

 チームに抱き付かれるアイツの姿はこれまでの燃える目ではなく、喜ぶ目だ。

 俺がキャッチャーをするのはこの役でしか分からないアイツの姿を見ることができるからだ。

 マウンドの上で一人戦うアイツをまっすぐ見ることができるのはチームで俺だけ。

 知ってるか、俺はお前がボールを投げたあとに見せる姿が最高に格好いいって思ってることに。


「やったな」

「ああ、やったな」


 お前とバッテリーが組める俺は最高に格好いいだろ。

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