第2部 一級一球

 ボールを壁に打ち付けるこの時間が好きだ。

 どんな選手もこれで練習する。


「けど暇だよな」


 ただただ壁にボールを打ちつけまた壁に打ち返す。

 その繰り返し。


「試合したいよな」

「だったらこの壁を使った試合をするか」


 同じテニス仲間からの提案に俺は壁打ちつけを止めた。


「どういうことだ?」

「壁に打つつけたボールを打ち返すゲームだ」

「なるほど、おもしろい」


 そういうことでコートを半分にしてボールを打ち壁に打ちかえる。

 そして相手がボールを打ち返す。


 ポーン


「そういえばお前は今度の試合に出るのか」


 ポーン


「そう言うお前は」


 ポーン


「コーチが無理するって」


 ポーン


「そっか」


 ポーン


「まだ前回の試合を気にしているのか」


 ポーン


「漫画の世界にあこがれてテニスを始めたのに」


 ポーン


「その世界に絶望したか」


 ポーン


「絶望な……」


 ポーン


「テニスは楽しいか」


 ポーン


「ふっ、楽しくなかったらここにいないだろう」


 ポーン


「そうだよな!」


 パーン


「あ、お前強すぎ」

「やめるなよ!」

「何がだよ!」

「ほら打ち返した」


 転びながらも俺が打ち返したボールは宙を舞う。


「今度はお前が追いかけたボールを今度は跳ね返した」

「何が言いたいんだよ」

「次の試合は俺とダブルスやろうぜ」


 伸ばされた手を俺は見る。


「ダブルスか」


 手を取らずに立ち上がる。


「その前に俺は一人のコートで勝ってみせる」

「そっか。残念」


「だから待っていてくれるか、信也しんや


「ああ、待っているぞ音也おとや


 俺たちは熱く手を握った。

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