第32話 魔法使いの卵
翌日、土曜日の朝、ぼくの目は思いがけずパッチリと覚めて、もう気持ちが止まりそうになかった。着替えもせずに階段をかけ上がる。
「こら、誠! ドタバタ走るな!」
お母さんの怒る声も聞こえない。
「お父さん、起きてよ! 朝だよ、朝」
「うーん、まだ寝かせてくれよ……眠いんだよ」
「そんなこと言わないで!」
「ううーん、今日は予定があるっけ? 真美さん?……」
お父さんはぼくをお母さんと間違えたらしい。
「誠、かー」
起き上がったお父さんは、機能停止のロボットみたいにそのまま布団に戻ってしまった。こうなると、もうぼくの手には負えない。
「お母さん、おじいちゃんとお父さんと3人でグラナスさんの話をすることにしてるんだ。お母さんがお父さんを起こしてくれない?」
「グラナスのこと?」
お母さんがボソボソっと呟く。
「そうなの。お父さんがいてくれないと!」
お母さんは腰に手を当ててこう言った。
「その前に! みんな、朝食できたわよ、起きなさい!」
塔の中にお母さんの声がこだました。
「真美さんが怒っちゃったじゃないかー、誠」
「ぼ、ぼくのせいじゃないと思うんだけど」
「真美さん、怒ると口聞いてくれないんだぞ」
お父さんが怖いのはお母さん。お母さんはたぶん、家庭内カーストのトップにいる。グラナスさんよりもね……。
でもお母さんの作る朝ごはんはおいしい。
今日はチーズトーストと、サラダとスクランブルエッグだった。
「お母さん、おいしいね!」
と言うと、お母さんはにこにこして、
「パン、もう一枚いる?」
と聞いてきた。ぼくのお母さんは料理上手だ。
「うん、食べる」
と答えた。
さて、本題だ。
ご飯を食べ終えてぼくとお父さんとおじいちゃんは、ぞろぞろとおじいちゃんの部屋に向かった。実咲は怪訝な顔をして、ぼくたちを見ていたが、お母さんが、
「実咲、お洗濯手伝って」
と言うと、ぴょんとソファを下りて行ってしまった。
「……読めるの?」
おじいちゃんにそっと聞く。
「読めるはずじゃ」
おじいちゃんのあいまいな答えに、ぼくは不安になる。お父さんはさっきまで眠いって文句を言っていたのに、いつの間にかこれから先のことを考えるとワクワクが止まらないみたいだった。なぜなら、そう顔に書いてあるから。お父さんは自分の好奇心に勝てるような人ではない。
「気をつけないといけないよ。古い本はすぐバラバラになるからね」
お父さんが学者らしいことを口にした。
おじいちゃんの部屋について、ぼくたちは神妙な面持ちで缶をみつめた。気がつくと、3人とも正座だ。
「じゃあ、ぼくが開けるよ」
とお父さんが言った。ぼくとおじいちゃんは興奮を抑えられずにいたけれど、同意した。
ガタガタっと少し力を加えて、缶を開ける。
「お!」
魔導書だ!
これが代々うちに伝わる魔導書。別に輝いてるわけでもないし、特別な力を秘めていそうでもない。ただの古い本だった。
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