第28話 空想上の生物

 帰ってからいつものようにリョウタとタクミが自転車でやって来て、今日は3人でぐるぐる塔の周りを自転車で走りまくった。

 もちろん、塔の周りは舗装なんかされてないから、ひとつ間違えるとタイヤが滑って転ぶ。ちょっと危ないから、ちょっと楽しい。


 それからご飯までの間に宿題をやるように言われて……自転車で走ってた時には忘れていたのに、グラナスさんのことが頭から離れなくなる。

 漢字の書き取りが、気がつくと横棒が一本多かったり、少なかったり。お母さんにどうやって話そう……。


 夕飯の時間になっても、ご飯より考えごとが多くて、

「誠、しっかり食べなさい」

 とお母さんに怒られた。よくよく見ると、野菜炒めの発展系だと思っていたおかずが、酢豚だった!


 そしていよいよ実咲がお風呂に入る時間になる。ぼくは何食わぬ顔で例の大きなテレビを見ている。お父さんが録画してくれた恐竜のドキュメンタリー。

 3Dの恐竜が、ジュラ紀の大きなシダの森の中をずしん、ずしんと歩く。


 ……実咲、まだお風呂に入らないのかなぁ。


 すきな恐竜を見ていても、気が散って仕方がない。テレビでは、

「もしもこんな恐竜が現代のわたしたちの社会に現れたら、どうなるでしょうか? 」

 と、ニューヨークのような大きなビル街の通りを、さっきの恐竜が歩く映像が流れている。


 ……実咲のばか。今日くらい早く入れよ。


 大体、恐竜がニューヨークに突然、どうやって現れるんだよ。

 イライラしているので、つい、そんなことを考える。――そうだ、グラナスも同じだ。グラナスさんこそ、現代に突然現れたドラゴンだもの。


 ドラゴンより、恐竜のほうがまだ。恐竜は実際に地球にいた、科学的根拠がしっかりあるんだもの。

 ドラゴンはみんな、想像上の生き物だと思ってる。ここにいるのに。


 もし空想小説のように、信じる心が足りなければ想像上の生き物が消えてしまうとしたら……。もしかしたら、地球最後のドラゴンかもしれないグラナスさんも、消えてしまうかもしれない……。そんなの、やだなぁ。


 ドラゴンが本当にいたら、大人たちには都合が悪いのかな?ほとんど恐竜と変わらないのに。……ちょっとだけ、違うところは、火を吐いたり言葉をしゃべるところ、かな?

 あんなに大きな生き物が、空を飛んだりしゃべったりしたら、まずいのかなぁ。


 ぼくは「うーん」とうなって、気がついたらソファーの上でダンゴムシのようになっていた。


「まーこーと!どうしたの?実咲、お風呂に入ったわよ」

 お母さんがやって来て、テレビをリモコンでぷちん、と消した。

「お母さん、なんですぐに教えてくれなかったの?」


 ぼくはがばっと起き上がって、抗議した。お母さんはぼくの隣に座った。

「あら、だって誠は恐竜見てたでしょう、一生懸命。だからお母さんは、洗い物しちゃったのよ」

 やられた。


「お母さん、約束したじゃん」

「したよ。だから聞きに来たでしょ?」

 何から話そうか、口を少し開いたところで固まってしまった。

「あの、グラナスさんの話、またしてもいい?」

「もちろん。まぁ、そのことだと思ってたし」

 さすがお母さんだ。


「あのさぁ、グラナスさんに聞いたんだよ。もう一度、空を飛びたいかって」

「グラナスはなんだって?」

「外には出てみたいけど、変わってしまった世界を飛ぶのはいやだって、言ってた……」

 しょんぼりしてしまったぼくの頭を、お母さんはポンポン、と2回たたいた。


「誠がしょんぼりすることないわよ。外に出すだけなら、できないわけじゃないし、逆にわたしたちにしてあげられることだわ」

「だから、お母さんは、大人だからさ……」


 お母さんは大きく息を吸って吐いた。

「大人とか、関係ないじゃない? 第一、誠はグラナスが自衛隊の航空機の爆撃を受けてもいいと思うの? 」

 ちっとも真面目じゃない顔で、そう言われた。

「ゴジラじゃん、それじゃ」

「同じことでしょう? 」

 お母さんは涼しい顔をして、コーヒーを飲んだ。いつの間にかぼくの前にも、コーヒー牛乳の入ったコップが置かれていた。

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