第25話 グラナスさんの本音
コツコツコツと、ほの暗い石造りの階段を下りて行く。あんなにだいすきなグラナスさんに会うのに、なんとなく気が重い。ああ、こういうのを大人は『空回り』って言うのかもしれない。
「こんにちは、グラナスさん」
「おお、誠か、よく来たな」
グラナスは目を細めて喜んでいるように見えた。ぼくが来て喜んでくれるなんて、うれしい。
「ぼくがいないときはずっと寝てるの?」
「いや、そんなことはないよ。寝ていることもまぁ、ないとは言わないが、お前がいないときには真美や正が来てくれるからなぁ」
「え?お母さんとおじいちゃん?」
「ああ、ふたりともとても良き友だよ」
…全然知らないふりしてるくせに、おじいちゃんはともかく、お母さんもよくここにきてるなんて。
「ところで誠。お前、わしをここから出すつもりなのかな?」
「え!?」
ぼくは突然の質問に答えられないで固まってしまった…。その話をグラナスさんのほうから切り出してくるとは思わなかったから。なんて答えたらいいんだろう。
「……」
「どうした、下を向いてしまって」
「グラナスさんは外に出たくない?ぼくは、ぼくがグラナスさんならまた空を飛びたいって思うかなぁって」
「ふむ…」
今度はグラナスさんが黙る番だった。黙られてしまうと空気が重たくなる。学校で先生に叱られているときみたいに。
どんな答えが返ってくるのか予想もつかなくて、下を向いてドキドキしながら待っている。
「真美が言っていたよ」
「お母さんが?何を?」
「『そうね、グラナスもたまには虫干ししたほうがいいんじゃないの?』って。いやぁ、ここに住み始めてずいぶん経つが、『虫干し』しろと言われるとはな!せめて『甲羅干し』と言ってくれというものだ」
ぶわっはっは…。
またまた豪快に笑って、同時にブレスがちろっともれる。小さな炎が壁を照らす。
「お母さんて時々、おかしなこと突然言うんだよ。こっちは真面目な話をしているのにさ」
「なんだ、真美が苦手なのか?」
「そんなことないけど…。ぼくはそういう意味で言ったんじゃないのにな」
にこにこしてグラナスさんはこっちを見た。
「ふむ、ここに来てどれくらいになるかわからんが、この家に住む者はみな、わしにとても良くしてくれたよ。真美もそうだ。ドラゴンの世話をするなんて、この国では真美の他にいないのではないかな?」
ふふふ、という顔を目の前のグラナスさんはしてみせた。
「空を飛びたいかと聞かれたら、それはどうだろう?想像してみたが、本当のことを言うとわしがここに来た時とはまるで違う世界に飛び出すのはちと勇気がいるな」
確かにそうかもしれない。今、ぼくが知る限り、世の中にはドラゴンも冒険者もいない。うちのような塔や、うちに似たお城も珍しいし、グラナスさんには知らないものだらけだろう。
「しかしな、誠。世界は変わってしまったかもしれないが、もっと身近に風や、花や森や空を感じてみたいとは思うのだよ」
その声はとてもとてもやさしく、夢見るようで、ぼくもグラナスさんの夢の中に招待されたような気になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます