第23話 立ち入り禁止の『屋上』

『魔法』…グラナスさんを屋上に出してあげる魔法…?

 ぼくの家にはひとつ、守らなきゃいけない約束がある。それがさっきから話題になっている『屋上』だ。『屋上は危ないから立ち入り禁止』。これは絶対に守らないといけない。


 お父さんが家を住みやすいように熱心にリフォームしたとき、屋上は直さなかった。だから屋上はぼくが生まれる前からずっと同じままなはずだ。とにかく、バリアフリーだったり、落下防止の柵がきちんとあるわけじゃない、とお父さんとお母さんは言った。

 ぼくはお母さんが洗濯物を屋上に干したら、塔の上の旗のようにパタパタはためいて、ちょっとステキだなぁなんて思っていたけど、お母さんは「潮風の中には干せないわ」と苦い顔をした。


 その『屋上』にグラナスさんを召喚するってことは、つまり、『屋上』には隠された秘密があったってことだ。なんてこと!ここに生まれてから十年の間に、これっぽっちも疑わなかったなんて…。


「そうじゃのう、屋上にしかけがあるんじゃ。それはわしらがしたのではなくて、もっとずっと古いご先祖さまがグラナスのために施した仕掛けなんじゃよ」

 想像してみた。そこはRPGの冒険に出てくるような塔の屋上で、ちょっと草が生えちゃったりしてるけど、塔の建物と同じくきっと石が組まれてできている。海風がいつも強く吹いていて、急な斜面から海に下る小道も、狭い浜辺もよく見える。そしてそこに、何か魔法のしかけがあるんだ!


「魔法のしかけって具体的になんですか?」

 ぼくはもうワクワクが止まらなくなって、おじいちゃんたちにそう聞いた。

 またふたりとも顔を見合わせた。何かごにょごにょとぼくに聞こえないように話をしている。

「誠、別に教えてもかまわないし、大人になるまでには教えるつもりでいたんだけどね…」

「うん」

 ぼくはすっかり興奮して、イスに座ったひざの上に手を置いて前のめりになっていた。

「やっぱりもう一度、グラナスと話をしてみてごらん。お前が『魔法』と聞いて憧れる気持ちもわかるけど、本人に地下室から出る意思がなければねぇ」

「………わかった」


 確かにそうなんだ。地下室から屋上に『魔法』で出るのはぼくじゃない。もしもぼくがグラナスさんが『魔法』で移動するのを見たいと思うなら、それはグラナスさんを見世物にするってことになる。


 ぼくはグラナスさんと友だちだと思ってる。友だちを見世物にするのは、友だちとして失格だ。

 地下室にいるグラナスさんを思い出す。あの大きいピカピカのウロコにおおわれた身体。そしてそれに見合う大きくて、折りたたまれたままの翼。ブレスはたまに見るけど、ぼくはまだあの翼が少しでも開くところを見たことがない。


 ぼくは見てみたい。あの翼がはためくのを。でもそれはぼくの願いごとで、グラナスさんがそうしたいのかどうか、それが問題なんだ。それを確かめないといけないことはよくわかっていた。

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