第20話 質問タイム

 お母さんは昨日、『自分の答えを探すこと』と言った。ということは、たぶん、『自分で答えを探すこと』じゃないんだな…。『自分で答えを探す』のは簡単そうだ。答えを知っている人に教えてもらえばいいんだから。でも、『自分の』だと、だれかに教えてもらうだけじゃだめ。ぼくだけの、ぼくが考えて出した答えじゃないとダメなんだ。その辺のクイズよりずっと難しい。


 それでもぼくは答えを探そうと思うんだ。


 そのためにまた参考意見を集めることにした。今日は土曜日。仕事が休みで、パソコンの前に張りついているお父さんを捕まえた。

 …お父さんはちょっと、他の大人と考え方が違うからなぁ。ぼくと似た考えかもしれない。ちょっと期待する。でもお父さんの考えてることを予想して、当たったことはほとんどない。お父さんの頭の中は不思議の国なんだ。


 とんとんとん。

 お父さんの書斎をノックする。

「誠だけど、入ってもいい?」

「いいよ。今、オンライン対戦中だから入ってちょっと待ってて」

 お父さんはいつも通りだ。変わってると思うけど、変わってないお父さんてどんなんだろう?うちのお父さんしか知らないしなぁ。でもお父さんがいつも難しい顔をしていて、家にいてもあまりしゃべらなかったり、仕事が忙しいと顔を見なかったりするのは嫌かもしれない。変わってても、ぼくはお父さんがすきだ。お父さんはゲームやテレビがすきだけど、家族も大すきだと思うし。それに、気軽に話せて、気軽になんでも答えてくれるし。


「お待たせ。ごめんよ、誠。ちょっと負けそうだったんだよ」

「勝てた?」

「もちろん!勝たないわけにはいかないよなぁ。毎日、仕事が忙しくても少しはユニット鍛えてるのにさ」

 お父さんは勝って、ご機嫌だ。笑顔がぴかぴかだった。

「ねぇ、お父さん、聞きたいことがあって来たんだけどさ」

「なんだい?また虫のこと?」

「ううん、虫とは仲良くやってるから大丈夫。ちがうんだ、…グラナスさんのこと」

 おいしくないものを口に入れちゃったときみたいに、お父さんは急に口を閉じた。

「あー、そのことか。お母さんから聞いたよ…」

 頭の後ろをぽりぽり掻いている。あれはお父さんが何か困って言い訳をしようと思ってる時のクセだ。

「お父さん。ぼく、意見が聞きたいんだ。ごまかしはダメだよ」

「なんだか今日の誠は怖いなぁ」

 向かい合って座ってるぼくの頭をぽんぽんした。


「真美さん、悪いんだけどぼくの部屋にお茶をくれるかなぁ?ぼくと誠の分」

「仕方ないわねぇ」

 お母さんのため息をつく姿が目に浮かぶ。今日は実咲とお母さんでケーキを焼くらしい。


「それで?何を知りたいの?」

 ぼくはできるだけ自分の決心が伝わるように、目に力を込めてお父さんを見た。

「お父さんはグラナスさんを地下室から出してあげたいと思ったこと、あるよね?」

 ん、と小さくうなる声がした。これは図星だな。お父さんだってぼくと同じような男の子だったに違いない。おじいちゃんがよく、ぼくたちは似てるって言うもの。

「…思わない方がおかしいだろう?」

 お父さんはだいぶ困った顔でそう答えた。ぼくはちょっと安心した。お父さんはきっと味方になってくれる気がしてたんだ。


「誠、ぼくだってグラナスと知り合った頃はよくそう思ったよ。だってあんなところに翼をたたんで閉じこもってるなんてもったいないだろう?」

 うんうん、ぼくはにこにこしてうなづいた。やっぱりぼくと同じ!

「あんなに立派な翼だってついてるし、飛びたいに違いないじゃないか。ふつう、ドラゴンは飛ぶしさ」

 お父さんはやっぱり話がわかる。

「ブレスだって外だったらたまには勢いよくゴーっと吐いても問題ないし、ストレス発散になるんじゃないかなってさ」

 …ぼくはそれはちょっと危ないかも、と思った。火事になったら困るし。

「ドラゴンだからってわけじゃなくても、やっぱり生き物は自然な姿でいるのが美しいんだ。高山植物は山に登って見るから美しいし、虫だって博物館の標本と本物の美しさはぜんぜん違うだろう?」

「そうだね。生きて動いている虫はなんていうか、ぼくたちみたいに生きてるって感じがすごくするんだよね」

 お父さんは満足げに口元で笑った。ぼくも負けずににやりと笑った。

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