第18話 たいふういっか
「いい加減に起きなさい」
というお母さんのちょっと本気で怒ってる声で目が覚めた。窓の外はすっかり気持ちのいい天気で、鳥の鳴く声が聞こえていた。
「学校がお休みになったからって、いつまでも寝てていいわけないでしょう」
着替えてリビングに下りると、お母さんがまだブツブツ言っていた。
「昨日は遅くまで話してしまったからなぁ」
おじいちゃんがのん気に、お茶をすすりながらそう言った。お母さんの目つきが鋭くなって、ぼくはテーブルの下に隠れたくなってくる。
「もう!誠!いつまでも起きてたらダメでしょう!」
いつまでも寝てたらダメ。いつまでも起きてたらダメ。…いっそ寝ない方がいいのかも…。なーんて。
朝昼ご飯に目玉焼きとウインナーを食べて、カリッと焼いた厚切りのトーストを食べた。トーストの厚いの、中が不思議にふわふわでおいしいんだ。
「お母さん、外で遊んでもいい?」
「いいけど、まだ海は荒れてるから下りたらダメよ」
「わかったー。家の周りで遊んでるよ」
熱がすっかり下がったらしい実咲が、「まだ外で遊べないわよ」とお母さんに怒られて、ぼくに小さく手を振った。
ほんとのほんとにいい天気になった。『たいふういっか』?晴れてるからなんでもいいや。
ぼくはとりあえず、塔の周りをぐるりと回って、石の下や草の中にいるダンゴムシをプラスチックの虫かごに集めてまわった。ダンゴムシたちにはくるりと丸まってるやつと、逃げ出そうとしてプラスチックの壁を登ろうとするやつがいる。逃げようとしてるやつに「がんばれ!」って応援してあげるんだけど、ぼくが虫かごをうっかり動かしちゃったりするとそのダンゴムシもくるりと丸くなってしまう。地面に虫かごを下ろすと、今度は安心したのかダンゴムシはそろそろと動き出した。
で、ぼくは何をしているのかと言うと、ダンゴムシを観察しているのだ。人間と一緒でダンゴムシにもいろんなやつがいる。そうそう、教室とも一緒。クラスにはいろんなやつがいるもの。ぼくはというと…たぶんだけど、最初は丸まってて、かごが揺れなくなったら動き出すタイプかなぁ。
考え事をしながらダンゴムシを見つめていたけど、それが特別楽しいわけでもないことにな気がついた。今度またリョウタとタクミが来たら、どこにたくさんダンゴムシがいるか教えてあげよう。お母さんの植えたタイムの茂みにダンゴムシをバラバラっと放す。もしょもしょとみんな、どこかに消えていった。
つまらなくなったので、虫かごをぶら下げて塔の周りをぐるぐる歩く。想像がつくと思うけど、一周はけっこう長い。考え事が始まるくらいには。
大人になったらグラナスさんと空を飛びたいとか思わなくなるのかなぁ。それともおじいちゃんは元から空を飛びたいと思わないのかも。だってお父さんは今でもドラゴンが飛ぶゲーム、だいすきだし。
大人だって、いろんな人がいるしなぁ。
でも、もしおじいちゃんが空を飛びたくないんだとしても、それはグラナスさんを自由にしてあげないこととは関係ないんじゃない?おじいちゃんがグラナスさんを自由にしないのには、何か理由があるんだな…。うーん、うーんと考えながらとにかく歩く。大人の考えはやっぱり、子どもにはわからないのかも。子どものままじゃわからないのかな?
考えることにもだんだん飽きてきて、グラナスさんの通風口をつるバラを避けてのぞいてみる。…寝てるし。
「いつまでも寝てたらダメでしょう」って、今度はぼくが言っちゃうよ。とにかくグラナスさんは寝てることが多い。退屈だからなのか、夜行性なのか、そもそも寝るのがすきなのか…。こっちは本人に聞けばすぐにわかるだろうけど。
しばらくしゃがんで眺めてたけど、ちっとも起きそうにないのでそれにも飽きてしまった。仕方がないからうちに入って『恐竜ハンター』でもやろうかな。ワイバーンに乗って狩りをするハンターになろうか。…想像するだけで、なんだか虚しくなった。だって、すぐ近くに本物のドラゴンがいるのにさ。空を飛ぶ姿を見ることもできないなんて。
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