第11話 友だちになる約束

「でもさ、目の前にこーんなに大きなグラナスさんがいても信じないなんて、すごくお父さんらしくて笑っちゃうね」

 グラナスさんの頭は、そのときのことを思い出すために遠くに旅立っているように見えた。目を細めて、塔の暗い壁をじっと見ていた。

「あの子がわたしを見つけてからただしに連れられてここに来るまで、どれくらいかかったことか。わたしはそれはそれは、努がその階段を下りてくる日を楽しみにしていたんだよ」

「グラナスさんは子どもがすきなの?」

「特にすきでも嫌いでもないが…そうだなぁ、わたしはたぶん人間がすきなんだよ」

「ふぅん」

 ぼくたちがつるバラの前でサッカーボールを蹴って走ったり、なわとびの練習をしたりしてる間、グラナスさんはここでじっとぼくたちを感じてたのか。もっと早く気がつけばよかったのに。ぼくはいつも、肝心なとこでツメが甘い。


「グラナスさん、ぼくはこれからずっとずっとグラナスさんの友だちだよ!約束!」

「そうだな、友だちだ」

 さすがにドラゴンと指切りはできなかったけど、これでふたりの間に『約束』ができた。


「誠」

 おじいちゃんが杖をついて「どっこらしょ」と階段を下りてきた。

「もうそろそろ部屋に戻らないと、お母さんが発狂するぞ。いや、その前にわしがお説教されてしまう」

「そうだな、わたしも明日、真美にお説教されてしまうな」

 ぶわっはっは…。

 わ!いつもより大きくグラナスさんが笑ったので、グラナスさんの口から小さな炎が吹き出した!

「おお、すまんすまん。ブレスを吐いてしまったよ。熱くなかったかい?」

「う、ううん、大丈夫!」

 すごーい!

 グラナスさんは本物のドラゴンだ!ぼくは本物のドラゴンと友だちになったんだ!もう興奮して眠れそうにないや。


「笑ったついでにブレスをうっかり吐くとは。塔が燃えないように気をつけておくれよ」

「ああ、申し訳なかった。ここに置いてもらえなくなるところだったな」

 おじいちゃんとグラナスさんは目を合わせてにやり、と笑った。ふたりはぼくが生まれる前から長い長い間、友だちだったんだ。まるで兄弟のように。

 それってすごくうらやましいし、それからすごくすごいことのように思えた。ぼくも大人になって、おじいちゃんになっても、リョウタやタクミと友だちでいられるかなぁ。そんな未来のことは想像できなかった。


「さて、本当に上がるぞ。まったく努もこの間のリフォームのときに、ここに『エレベーター』をつけてくれたらよかったのに。気の利かんやつじゃ」

 塔のエレベーターを下りたら、大きなドラゴンがいた、なんて雰囲気まるでなしだよ、と声には出さなかったけどぼくは不服を言った。

「じゃあな、誠。また来るのを待っているよ。おやすみ」

「おやすみなさい。グラナスさんもよく寝てね」

「ああ、ありがとう」

 ぼくたちはエレベーターではなく、古い階段をゆっくりと上がっていった。

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