第12話 お父さんの秘密
次の日の朝、ぼくが目玉焼きのせトーストを食べていると、お父さんがあくびをしながらテーブルにやってきた。お母さんは怒っている。
「もう!昨日の夜、いつまで起きてたのよ!」
「そんなに遅くなかったよ」
「あなたのそんなに、はあてにならないわ」
いつも通りの朝だ。毎日、同じことで怒られるお父さんてある意味、すごい。
でももっとすごいのは、お父さんは本当のドラゴンを知っているのに、ドラゴンの出てくるゲームに子どもみたいに熱中していることだ。今、お父さんがハマってるのは、ドラゴンの背中に主人公が乗って敵を倒すゲーム。
…もしかしたらお父さんもぼくと同じく、グラナスさんの背中に乗りたいのかもしれない。
ぼくがじーっとお父さんの横顔を見ていたのがバレて、歯磨きをしていたお父さんは口があわあわのまま、
「ん?誠、どうした?」
と聞かれてしまった。「ううん、なんでもないよ」ってあわてて答えたら、お父さんは変な顔をしていた。
「あら、大変」
お母さんが突然、大きな声でそう言った。
「どうかしたのかい?」
「実咲、熱があるのよ。学校、休ませないと」
お母さんはあわててパタパタと走って、学校に欠席の連絡をしていた。それから、実咲の頭を冷やしてあげて、布団に寝かせて、今は病院に行く支度をしている。
「ねぇ、真美さん。今日は誠をぼくが送っていくよ」
「あなた、仕事、間に合うの?」
「まぁ、なんとかなるだろう。いつもなんでも真美さんに押しつけっきりだから、たまにはいいんだよ」
お父さんはにこにこした。
そしてお母さんはほっとした顔をした。
「すごく助かる」
「実咲のこと、よろしくね」
「誠、支度してお父さんの車で送ってもらってね」
ぼくはうなずいて、ランドセルを取りに部屋に急いだ。
お父さんは隣の大きな市にある大学の助教授だ。『ジョキョウジュ』というとみんな、「すごいね!」って言うけど、お父さんは「この年で助教授は、そんなにカッコよくないかな」と困った顔で笑う。だからぼくも、そんなものなのかな、と思う。そういうわけでお父さんは隣の市まで通っているので、いつもお母さんが送ってくれる時間より少し早く家を出た。
お父さんの車は、七人乗りの少し大きい白い車。後ろはスライドドアだ。
「今日は前に座るかい?」と聞かれたので前に座ることにした。いつもより広く景色が見える。
「そう言えば誠、おじいちゃんに聞いたんだけどさ」
「うん?」
「グラナスに会ったんだって?」
「ああ、うん、そうなんだ…」
別に秘密にしなくちゃいけないわけじゃないのに、なんとなく声が小さくなった。
「すごいだろ、グラナス」
「あ、うん!すごいカッコいい!」
「だよなぁ、男の子なら憧れるよな」
ハンドルを握って、お父さんは上機嫌だ。お父さんのほうからグラナスさんの話をしてくるのは驚きだったけど、それより、お父さんがぼくが思ってたよりずっとグラナスさんが好きなんだってことがわかってビックリした。
「ぼくは小さい頃から、グラナスが好きでね。今でもたまにだけど、会いに行くんだよ。おじいちゃんは一度寝るとなかなか起きないからね、そーっと押し入れに入るんだ」
想像して、ぼくは笑ってしまった。
「グラナスはね、それはそれは物知りなんだよ。ぼくが大学で研究者になったのも、グラナスがいろんなことを教えてくれたからさ」
お父さんの目はキラキラしていた。いつも子どもみたいだと思っていたお父さんは、実は子どもの頃の夢を今も忘れてない大人なんだ。ピーターパンみたい、と思った。
「さ、もうすぐ着くからね。車の中に忘れ物をしたらいけないよ」
「うん」
学校までの道が、もっと遠かったらよかったのにって初めて思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます