第10話 お父さんとドラゴン
ぼくは自分の思っていたことをそのまま素直にグラナスさんに話した。
「お父さんが子どもの時って、グラナスさんに会いに来てたでしょう?」
「努のことだな」
「そう、ぼくのお父さん」
グラナスさんとはにこにこしている感じがした。
「努がお父さんになったなんて、早いものだ。誠に似て好奇心の強い子だったよ、努は」
「え?ぼくに似てる?お父さんとぼく、似てないんじゃない?ぼくはお父さんみたいにテレビすきじゃないし」
「努は『テレビ』がすきなのか。わたしも『テレビ』の話は聞いたことはあるが、それはあまり良くないな」
今度はグラナスさんはお父さんのことを怒っているみたいだ。まるでグラナスさんがお父さんのお父さんになったみたいに。(お父さんのお父さんは、うちのおじいちゃんだけどね)
「お父さん、テレビとゲームが大好きなんだよ」
「誠は外で遊ぶことが多いな。友だちもよく来るし」
「うん、よく知ってるね!リョウタとタクミって言うんだ。ぼくたちもゲームするけど、外でも遊ぶよ。お母さんもゲームばかりしてると怒るしね」
「真美はしっかりしているからな」
グラナスさんはうちのことを何でも知ってるみたいで、魔法みたいだなって思う。うちをのぞける鏡とか持ってるのかな?
「真美…お前のお母さんだな。よくわたしの食べるものを持ってきてくれるんだよ。そのときに話もするのさ」
なるほど。それならお母さんのこと、よく知ってても不思議はない。
「努はお前と同じくらいの年の頃には本がすきでな。よくわたしみたいなドラゴンが出てくる本も読んでいたよ。そして、わたしにそこに出てくるドラゴンについて質問してくるんだが、物語の中と現実は違うからな。あの時は困ったよ」
ぶわっはっは、とグラナスさんは笑った。あやうく笑い声で吹き飛ばされそうになる。
「お父さんは本ばかり読んでたってこと?」
「そうだな、今思い出してみてもあまり外で遊ぶ子どもではなかったな。生き物の観察などはしていたようだが、お前のように運動をしたりはしなかった」
「ふうん」
やっぱり、お父さんは謎だ。ぼくは半分はお父さんからできてるのに、ぼくとお父さんの子供時代は全然ちがうなんて。
もっとも今のお父さんを見ても、ぼくと趣味や性格が似てるとはあまり思わないけど。
「そうだ、努が虫の観察をして塔の周りや海岸の方まで見て回っていた時、わたしも見つかったわけだ。あの、例のバラの影から」
例のバラの影から、お父さんも通風口と地下室を見つけたんだ!それはぼくと同じ発見だ!
「それからお父さんもグラナスさんの友だちになったんだね?」
「そういうわけではないんだよ。努は最初、ドラゴンが現実世界にいるなんて信じなかったんだ。目で見てもな。何しろその頃の努の頭の中は、虫のことでいっぱいだったからな」
「…虫とドラゴンって全然違うと思うんだけど」
グラナスさんはたぶん、ぼくを見てにやりと笑った。
「そうだな。虫とドラゴンは全然違う生き物だ。しかし努はひとつのことに興味を持つとそのことだけで頭がいっぱいになる。だから、わたしのことはそのとき見えなかったんだと思うよ」
ゴーゴーと吹き荒れる風の風向きが変わったのか、風の音より波の音の方がよく聞こえるようになってきた。
「そうなんだ。お父さんは何かに興味を持つと熱中しちゃうんだね?」
「そういうことだろうな」
ぼくはなんとなく納得した。グラナスさんの語るお父さんは、ぼくが今知っているお父さんと同じだと感じたからだ。
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