第9話 家族なのに知らないこともある
そう。ぼくはお父さんのことをあまりよく知らない。でもそれは不思議なことじゃないかもしれない。
たいていのうちは、お父さんは外に仕事に行くし、うちで一緒にいる時間は短い。それにうちのお父さんは、お母さんが言うにはやりたいことがありすぎて休みの日も忙しいんだって。「まったく仕方がないんだから!」とお母さんは怒っている。
ぼくたちが寝る時間になってからテレビを見出したり、ゲームを始めたりする。お父さんの部屋にいるときはスマホのアプリや、パソコンで遊んでるみたい。
ある日、「パソコンってどうやって遊ぶの?」って聞いたら、「パソコンが考える順番を教えてあげるんだよ」と答えてくれた。…パソコンに人間が教えてあげることなんて、何があるのかな?
そんなお父さんがグラナスさんと子どもの頃に話してたことってなんだろう?確かにグラナスさんはすごーく長生きしてるからたくさんのことを知ってると思うし、お父さんはいつでも知りたいことがいっぱいだ。と思うと、ますますお父さんの頭の中は不思議空間になる。
ぼくはやっぱり、お父さんのことをよく知らないんだなぁと思った。
それでぼくは少し、お父さんのことを知ることにしたんだ。知るためには観察から。これは、お母さんが教えてくれたこと。
今日もお父さんは夕飯の前に帰ってきた。ぼくはお風呂からちょうど上がったところで、髪の毛をガシガシふいていた。
今日の夕飯はアジフライだ。ソースをかける人と、しょうゆをかける人がいる。ぼくはしょうゆ派。お父さんは…ソース派だ。この辺は似ていない。
ご飯のあと、お父さんがテレビの前に座り込んで新聞を読みながらテレビを読んでいた。(どっちもニュースを知るためのものだと思うと不思議なんだけども。)
「お父さん」
「うん、どうしたんだい?」
「お父さんは今日は何してたの?」
「そうだね、仕事をしたよ」
「そうか、そうだよね…」
ぼくはいかに自分がバカな質問をしたのかと思いながら、そそくさとその場を去って、歯を磨いて寝ることにした。
その日は風が岬を通ってごうごうと音を立てた。ぼくは風の音で目を覚まして、グラナスさんに会いに行くことにした。
おじいちゃんはまだ起きていた。眠そうだったけど、グラナスさんに会いたいと言うと、押し入れを開けてくれた。そして、
「一人で行けるな?」
と聞かれたので、
「行けるよ 」
と答えた。
グラナスさんに会うまでの道のりは、それはもう暗くてすべってちょっと怖い思いをしたけど、RPGの主人公たちよりましだろう。変な音楽は鳴ってないし。
グラナスさんは風の音を聞いて、じっと通風口に目を向けていた。怖いなって少し思っちゃうくらい、真剣な目をしていた。でもぼくが来たことに気がつくと、とても喜んでくれた。
「誠、来てくれたのか!すごくうれしいよ」
「ぼくもずっとグラナスさんに会いたかったんだよ。この前、下りてきた時はグラナスさん、寝てたから…」
グラナスさんは申し訳なさそうな顔を多分して(ドラゴンの表情はちょっとわかりにくいから想像力が必要!)、
「正から聞いたよ。寝ている時に来てくれたんだな。ドラゴンは元々寝ている時間が多いものだから、眠気に勝つのはなかなか難しいんだよ」
ぼくはつい笑ってしまった。
「それが習性なら、無理しないでいいと思うよ」
と告げた。
「それで誠は話すことがあってここに来たんだろう?」
「…グラナスさんには隠し事ができないなぁ。実はそうなんだ。聞きたいことがあって…」
通風口の外のつるバラが強い風にあおられて、暗闇の中でも葉を揺らしているのが見えた。
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