第8話 地下室

 押し入れの中の階段はまだ石造りのままだったけど、RPGのお城みたいに壁にロウソクがついていたりはしなかった。

 おじいちゃんが足元を懐中電灯で照らしてくれる。ちょっとムード半減だけど、文句は言えない立場だよね。


 コツン、コツン、と足音が響く。塔の壁に反響するからだとおじいちゃんが教えてくれた。足音だけじゃなくて、どこからか水滴が落ちる音も響いている。ピチョン、ピチョン、…。

 こんなところにラグナスさんは住んでいるのか。これって本当に現実なのかと疑いたくなる。でも、現実であってほしい!


 そう言えば。

 僕はこの間ラグナスさんとお話したけれど、会うのは初めてだ。絵本や挿し絵で見たドラゴンの姿を思い出す。えーと、「エルマー」のシリーズ?「指輪物語」?「果てしない物語」にも出てくるかな?

「果てしない物語」の映画になったドラゴンは、白い毛が生えてふさふさだった。主人公は背中に乗せてもらえるんだよな。


 想像するだけでドキドキする。


「ラグナス、いいかな?」

 ドキドキの途中で、本人のところに来てしまった!まだ心の準備が出来てない気がする。うわー、本物のドラゴンだ、どうしよう?


「ラグナスは寝てるみたいだな。そろそろ起きる頃だと思ったんだがな。」

 おじいちゃんは人差し指を口に当てて、しーってした。そうか、寝てるのか。残念。


 でも、懐中電灯の明かりでほのかに照らされたラグナスさんの身体は決してツルツルではなく、ガチガチしていてとても丈夫そうだった。亀の甲羅みたいな色をしてるけど、甲羅と違うのは、そこはびっしり大きな鱗に覆われているところだ。一枚一枚、硬くて、もし殴ってもこっちが怪我しちゃいそうだ。


「ラグナスはいわゆるグランドドラゴンという種類なんだがな、地下に住んでいる竜なんだそうだ。眠っている時間がたいそう長い。地下で宝物をたくさん集めて寝ている時が幸せなんだと、むかし話しておったよ。」

 おじいちゃんは楽しそうに笑った。きっと二人は長い間、時間を共にしてきたんだってことがぼくにもわかる。


「ねぇ、おじいちゃん。お父さんはグラナスさんの友だちじゃないの?」

 ぼくとおじいちゃんは、おじいちゃんの部屋に向かって階段を上っていた。

「努のことか?努もグラナスとよく話をしていたよ。」

「お父さん、グラナスさんとそんなに話してたの?」

「ふたりで何だかわしにはわからん、難しいことをよく話していたなぁ。お前と年の頃はあまり変わらなかったと思うがな。」

「ふうん…。」


 ぼくはお父さんのことはよくわからない。

 ただ、他の家のお父さんとはちょっと違うと思う。ぼくともちょっと違う。お父さんはアウトドアは苦手なんだけど、『面白いもの』と『新しいもの』が大好きなんだ。

 じゃなきゃ、あんなに大きなテレビを買ったりしない。うちにはいつも最新型のゲーム機がおねだりしなくてもあるし、もちろんソフトも話題のものは流行る前に買ってある。


 お父さんは本当に不思議な人だと思う。

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