第7話 おじいちゃんの部屋の秘密

 おじいちゃんの部屋は、塔の中にあるけどなんと和室だ。塔の中はどんなにがんばってもいささか湿気がたまりやすい。和室は特に湿度でカビが生えやすいので、エアコンの除湿機能を使ったり、うまく湿度をコントロールしてるらしい。


 なんでも死んだおばあちゃんが日本の文化がすきで、生け花や茶道などを好んでいたから和室(イコール畳)が必要だったらしい。


 おばあちゃんはぼくが幼稚園に入る前に亡くなってしまった。ぼくの記憶にはほとんどない。でも、やさしかったことは覚えている。

 その人を忘れてしまったのに、やさしかったことは覚えているなんて、なんだか不思議な話だ。

 ぼくはおじいちゃんの部屋に入ると、お仏壇に線香をあげた。そして『ナムナム』をする。おばあちゃん、いつも守ってくれてありがとう、の意味だ。


 おじいちゃんの部屋には小さな台所と小さな冷蔵庫が備えつけてあって、おじいちゃんがお茶を入れてくれた。熱くてすぐに飲めないので置いておくことにする。


「なぁ誠、お前、自分が住んでいる家の下にドラゴンがいるなんて怖くないかい?」

 グラナスさんの話になってドキドキする。緊張してきて、きちんと前を向いていられらない。情けないけれどもじもじしながら話さなけらばならなくなった。


「おじいちゃん、ぼくはずーっと、家の地下室があるってこと、わかってたんだ。それで、そこに秘密があることもわかってた。」

「誠はなかなかいい勘をしているな。」

 おじいちゃんはがはは、と大きく笑った。真剣な話の最中に笑うなんて非常識だと思う。


「グラナスはとても気のいいやつでな、わしが生まれた時にはもうここに住んでいたが、いつでも話し相手になってくれたよ。」

「グラナスさんと話すときは、この間みたいにバラの垣根の間から話すしかないの?ぼく、もっとよく話してみたいんだけど。」


 おじいちゃんは少しだけ上を向いて考えこんでいたけれど、ぼくを見つめてこう言った。


「よし、誠にも教えるか。もうバレてしまったんだし、努も怒らないだろうよ。」

 ただし、真美さん(お母さんの名前)は怒るだろうけどな、とまた笑った。

「誠にはまだ早い、と真美さんは言っていたよ。グラナスはやさしいドラゴンだということは真美さんもよくわかっているんだ。それでも何かあったら、と心配なんだな。」


 おじいちゃんが「よっこいしょ。」と座布団から立ち上がる。ぼくもおじいちゃんに続いて立ち上がる。心臓の音がどうしても速くなってしまって、まさに口から飛び出しそうだ。


「お母さんというものは、子どもが心配なんだ。おばあちゃんもいつも努を心配していたよ。もっとも努はむかしから大人しい子だったがな。」

 おじいちゃんはむかしの話をしながら、押し入れのふすまを開けた。ちょっと、カビっぽいにおいがした。そして下の段のプラスチックの収納ボックスを部屋の中に出すと、押し入れの奥の壁を、どんどんと手のひらで強く押した。


 …小さいころに読んだ本の中で、クローゼットの扉を開けるとそこは異世界だった。ぼくの家では、なんと押し入れを開けるとそこは。

 押し入れの奥には、階段が続いていたんだ。

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