第4話 空を飛ぶ夢

 おじいちゃんとグラナスさんはそのあと少し話して、ぼくとグラナスさんが話すときのルールを決めた。


 ①友だちや実咲のいるときには話さない。

 ②グラナスさんのいることは内緒にする。

 ③家族のあいだでも、グラナスさんの話をしてはいけない。


 ただし、誰もいないときなら、おじいちゃんとお父さんにはグラナスさんの話をしてもいい!

 やった!ぼくはうちの秘密をとうとう解いたぞ。これは大発見だ。


 もちろん誰にも言わない。秘密があるってすごくわくわくするから。おじいちゃんには、たくさん聞きたいことがある。いつから、なんでグラナスさんがここにいるのか。グラナスさんはどうして地下から出て来ないのか…とか。


「誠、おじいちゃん、ご飯よ!もう、いつまでもうちに入らないで。」

 お母さんがプンプン怒っている声がした。

「誠、早く戻らんとお母さんが爆発するぞ。」

「そうだな、誠のお母さんはなかなか手強いからな。また来ればいいだろう。」

 おじいちゃんとドラゴンは、ぶわっはっはと笑った。


 ご飯はハンバーグだった。

 デミグラスソースと目玉焼きのハンバーグは、お店で食べるよりずっとおいしい。誰も残さなかった。ぼくも苦手なニンジンのグラッセを、ひとつも残さないで食べた。


「誠がニンジンを残さないなんて珍しい。」

 お母さんはいつも残すと怒るくせに、全部食べてもほめてくれないのはちょっとずるい。

 でもぼくはそれどころじゃなかったから、文句を言ったりしなかった。


「反抗期かしらね。」

 とお母さんはお父さんに言った。

「誰にでも来るものだよ。」

 とブロッコリーをもぐもぐ食べながら、お父さんは言った。


 ぼくに来たのは反抗期なんかじゃなくて、もっとすごいことだ!ドラゴンなんてゲームの中だけにしかいないと思ってたから。

 ゲームの中でもドラゴンは最高にカッコイイ。ブレス一吹きで何もかもやっつける。


 あー、グラナスさんに会ってみたいなぁ。

 ウロコは何色なんだろう?

 黒いのかな?緑?それとも真っ赤かもしれない。

 ノートの上に、ドラゴンの絵を書こうと思った。ページをめくろうとして表紙に目が止まる。


「あ!」

 ぼくの名前は、竜崎誠。竜崎…ヒントはここにあったんだ。わくわくしすぎて絶対、今夜は寝られない。ぼくはベッドの上でゴロゴロ転がった。心がパンクしてしまいそうだ。


「誠。早く寝なさーい!実咲がうるさくて眠れないって。」

 お母さんが爆発した。

 ちえっ。少しでもこの喜びを長く味わいたいのに。お母さんは女だから、こういう冒険心とかわからないんだよ。


 おとなしく明かりを消して、ベッドに入る。ぼくの寝ているずっと下に、たぶんぼくが生まれる前からずっと、竜は住んでいる。

 ぼくが生まれた時にも。


 お父さんのこともお母さんのことも、グラナスさんは知っているようだった。大人ってずるいなぁ。こんな特別にすばらしいことを秘密にしておくなんて。


 ぼくの心はグラナスさんでいっぱいだった。


 その夜、グラナスさんの背中に乗せてもらって夜の海の上を飛ぶ夢を見た。その背中はゴツゴツだったけど、風を切って飛ぶ翼はものすごく大きくて、カッコよかった。

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