第3話 大きな出会い

 …しーん…。


 だよな。もしもここに誰かがいるなら、ぼくが生まれてから十年の間に気がつかないわけがない。今まで家族の誰かが地下におりるのを見たことないもの。


 うらめしい気持ちでつるバラの向こうの暗闇を見ていた。

「やっぱりなんにもないんだね」

 はー。ため息が出た。


 バサバサッ!


 !!!


 え、なに?今まで十年間、何もなかったよ?

 バサバサッ!


 ぼくは完全に混乱していた。頭のそばに、ゲームだったらぐるぐるマークがついてるところだ。

 そうだ、ゲーム!えっと、こういうとき、勇者はどうする?


「…そこにいますか?」

 ちょっと声がふるえて、しかもちょっと小声になってしまった。

 もしかして、コウモリが住みついていたり…。それはちょっと怖い。


「ガガ…」

 ガ?カツーンと硬そうな音が石の床に響いた。―これはもう、コウモリどころじゃない予感。

 ふるえる体と、わくわくする気持ちが同居して、すっかり興奮してしまった。


「もしもーし…」

「…お前が後継者か。」


 しゃべった?え、しゃべったということは人なのかな?

 後継者って、この家の跡取りってことだよね。それならたぶん、ぼくってことになると思う。


「はい。ぼくがそうだと思います。あの、お父さんの次の、ですけど。」

 暗闇に沈黙が続いた。相手は何か考えているのかもしれない。

 それにしてもすごいしわがれた声。それで、なんだか迫力がある重い声。ちょっと怖い。


 悪魔が封印されてたら…それはまずい。逃げた方がいいかもしれない。


「ふむ。努の息子か。確か…誠と名付けたと聞いたが。」

「あ、はい。ぼくは竜崎誠です。小学四年生です。」

「学校に行っているのか。いつも遊んでいるのは学校の友だちなんだな。」

「はい、あの…うるさかったですか?」


 ぶわっはっはっは…。


 なんとも言えない声で、笑われてしまった。

「いやいや、男の子は元気なほうがいいだろう。努は子どもの頃からおとなしかったがな。」

 お父さんは大学で今も研究をしている。子供のときからきっと、勉強がすきだったんだ。ぼくとは大違いだ。


「お前はいつもわたしを探してくれていた。無視をして悪かったな。わたしはドラゴン、古の生物だ。化石のようなものだよ。」


「ドラゴン!?」

「驚かせてしまったな。」

「すごい!本物なんですよね?ドラゴンがうちの地下に住んでたなんて、すごい!すごい!」


 誰かに聞かれるのをちっとも気にせず、大きな声を出してしまった。それから、しまった、と思った。

 ふり向くとやっぱり、おじいちゃんがいた。


「なんじゃ、誠はとうとうグラナスを見つけてしまったのか。」

 おじいちゃんはつまらなさそうに言った。

「ぶわっはっはっ。そう怒るなよ、正。好奇心旺盛ないい子じゃないか。」

「グラナス…もう少し誠が大きくなるまでは辛抱してくれる約束だったではないのか?」


 おじいちゃんはむかしからの親友と話すように、楽しそうに話した。そうか、グラナスさんというのか。わくわくが止まらなかった。

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