第2話 つるバラの向こう

 ぼくの家は町外れの小高い丘にある。ちょうど弓なりになった海岸線の、端っこにぼくの家である塔があって、反対側の端っこには大きな灯台がある。向こうは真っ白な塔だ。ぼくの家より高い。


 町外れの海と陸の境目みたいなところにあるせいで、学校まですごく遠い。自転車なら通えるかなと思うけど、歩いて行くには遠い。ぼくはまだしも、実咲には難しいと思う。


 だから毎朝、お母さんのピンク色の軽自動車で送ってもらわなくちゃいけない。これはなかなかクツジョクテキだ。友だちはみんな自分で通っているのに、ぼくだけ幼稚園の時と同じ、お母さんの送り迎え。


 お母さんは送り迎えのときについでに買い物をすませて、洗濯をしたり、普通の家より大きな家を掃除する。

 うちの階段はぐるぐる上るタイプだし、リフォームして内装は普通の住宅と変わらないと言っても、広さは普通じゃない。


 一階はおじいちゃんの部屋と書庫、収納庫があり、二階がリビングやキッチン、お風呂とトイレ、三階はぼくや実咲の部屋と、お父さんとお母さんの部屋。

 みんなの家とそれほど変わりはないんだ。


 それで、どこもかしこも掃除をしてから「お母さんの時間」が少しあって、ぼくたちを迎えに来てくれる。

 車がピンクじゃなければなぁ。

 お母さんと実咲は、この車がお気に入りだ。


 その日はいつも通り、友だちが家まで自転車で遊びに来てくれた。みんな、それぞれのコントローラーを持って遊びに来る。マルチプレイができるから。


 でも、ゲームばかりしてるとお母さんに追い出されるので、外でボールを崖から落とさないようにサッカーをしたり、崖から海辺に下りるための急な階段を慎重に下りて行って、岩場でウメボシイソギンチャクをつついたり、ヒトデをつついたりして遊ぶ。なんでつつくのかというと、岩場には危ない生物が多いから、直接触ったらいけないとお父さんに教わったからだ。


 夕焼けが始まるころ、みんなはそれぞれの家に自転車で帰って行く。

「誠、じゃあな!」

「明日、学校で!」

 リョウタもタクミも幼稚園のときからずっと友だちだ。


 ふたりを庭で見送って、家に入ろうと思った。そろそろ宿題をやらないと怒られる。うちでは夕食までに宿題を終わらせる決まりなんだ。今日の宿題は算数ドリル。わり算はあまり好きじゃない。


 つるバラの前を通ったとき、海風とは違う方向から風を感じて、ぼくはふり向いた。そうしてそーっと、通風口に近づいてみた。

 まだのぞくことに成功したことは一度もない。でも今日こそ…。


 今度は大きな布がはためく音がした。

 塔の屋上に学校で上げる旗をつけたら、きっと同じような音がすると思った。

 通風口に顔を近づける。バラのとげが顔に刺さらないように、十分気をつけながら…。


 ぴゅー。

 顔に向かって風が直撃した!…ちょっと生あたたかい感じがして、気持ちが悪くなる。

 でもぼくは勇気を出してみた。

 せっかくのチャンスがダメになる!

「もしもーし!」

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