塔の中の飛ばないドラゴン

月波結

第1話 ぼくの家は塔

 町中のみんなが知っていることだけど、ぼくの家は塔なんだ。古い石造りの塔で、海辺の岬に建っている。だから知らない人はいない。


 塔には、緑色の蔦にぐるぐる巻きついている。たまにお母さんが窓やドアをふさがれないようにチョキチョキ切ってる。

 なにしろぐるぐる巻きだから。


 塔は三階建てだ。屋上もある。見晴らしがいいけど、お父さんは、「誠、老朽化してて危ないからダメだよ」と言うのでまだ屋上に出たことがない。


 だから屋上からの景色は想像するしかない。

 三階からでも海がよく見えるけど、屋上から見下ろしたらきっともっと爽快なんじゃないかなぁ。海風も海鳥も、みんなもっと近くなった気になれると思うんだ。


 住み心地は上々だ。

 ご先祖さまたちが代々、その時代に合った快適な暮らしを塔に導入してくれたので、エアコンもあるし、塔が広い分、大きなテレビが置ける。これは映画好きなパパの趣味だ。


 友だちはみんな、遊びに来ると大きなテレビでゲームをしたいと言う。ゲーム機とテレビを長ーいコードでつないで、テレビからだいぶ離れたところでゲームをする。お母さんが、「目が悪くなるからもう少し下がりなさい。」って言うからね。


 だって、本当に大きいんだ。ぼくは好きなアニメを見る時には大きすぎるんじゃないかと実は思ってる。でもお父さんは、「まるで映画館みたいだよなぁ」とうれしそうだ。「テレビの見過ぎよ」とお母さんがぷんぷん怒る。


 家族はお父さんとお母さん、それからおじいちゃん。お父さんのお父さんだ。

 あと、子どもはぼく(小四)と、妹の実咲(小二)。年があまり変わらないせいか、女子だからか、なんだか最近生意気だ。


 実は…なぜかみんなこのことには知らんぷりしてるけど、秘密があるんだ。お父さんもお母さんも何も言わない。おじいちゃんに聞いても「なんのことかな?」と言われてしまう。おじいちゃんはいつも、なんでも教えてくれるのに…。


 ぼくの家には地下室があるんだ。

 たぶん、半地下室。

 塔の足元には、通風口だと思われる穴が空いている。小さな子どもが入るのも、ちょっと難しそうな大きさだ。柵があって中はのぞけないけど。ここはママも蔦を切らない。でも代わりにバラが植えられている。白い花が咲く、ツル状のバラ。


 ほかの柵のところにも同じように植えられていて、どこものぞくことはできない。

 どんなに屈んで目を凝らしても、そこに何かがある気がするのに、みんなは「何も無いよ」と笑う。


 ある日、おじいちゃんはひそひそ声で、「実はな、おじいちゃんとご先祖さまたちが持っていた本や思い出の品がしまってあるんだよ。そういうものは誰にも見せたくないだろう?」と言って笑った。


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