第14話 1999年のふたり
あの人と過ごした時間は、わたしがこれまで過ごしてきた時間とは、まるで違う世界だった。
”二人の出会いは何かの運命のよう”
そんな会話をしたのは、出会った頃だったか――それとも、別れる前だったか。
わたしが彼の胸に飛び込むのに、それほど時間はかからなかった。
出会ってからたった数分間で恋をして――
恋に焦がれ
迷い
戸惑い
そして
――次の瞬間には、彼の胸の中に抱かれていた。
わたしって、わたしって、こんなことできるんだ。
少し前までは想像できないような夢のような時間が過ぎてゆく。
彼はわたしの全てを受け止めてくれる。
初めてわたしのすべてをゆだねられる人に出会えた。
それを”幸せ”と言っていいのかどうかは、わからないけれど、わたしはとても満たされている。
今はそれでいい。
疑うことを知らない少女のように、突然目の前に現れた王子様が、いつでもわたしを支えてくれると信じることができる。
そしてあの人はわたしのわがままに100%応えてくれた。
「年末は帰れないかなぁ。ほら、ニュースでもやってるでしょう。200年問題」
わたしは”仕事が忙しいから”と実家の母に嘘の電話をして、年末はあの人のそばにいたいと思った。
でも半分は本当だ。
その昔、コンピュータがまだ一般の家庭に普及することなど遠い未来のことだと思われていた時代――西暦が1900年代から2000年代に入ることなど考える余裕などなかったそうだ。
『Y2K』という言葉は、今となっては誰も覚えていないかもしれないけど、あの人が東京に出てきたのも、実は『Y2K』のおかげなのだということがわかったのは、彼の部屋に初めて泊まったときのことだった。
「ねぇ、2000年問題って、実際どうなるかしらね。飛行機が落ちるとか、銀行の残高が0円になるとか言ってみんな騒いでるけど……」
あの人はわたしの口に人差し指を優しくあてがった。
「大丈夫だよ。2000年は、きっといい年になるさ。二人にとって」
あの人の声、あの人の瞳、あの人の言葉、あの人の匂い、あの人の鼓動……。
たとえ2000年に世界が滅びるような事が起きても、あの人がそばに居てくれたらそれでいい。
それからまた二人は目を閉じて愛を確かめ合った。
今が一番幸せと思うわたしの心よりも、あの人の心はもう少し先を見つめていて、”大丈夫”と言ってくれる。
その時は、それがとてもうれしくて仕方がなかった。
ふたりの愛を確かめ合えば確かめ合うほどに、わたしはあの人のことを好きになっていった。
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