第3話 やりたいこと

12月26日 AM8:25



通勤電車に揺られること約30分。


いつもの駅に到着した俺とタナーは、駅前の喫煙所に足を運んだ。


(今日は何するのー?)


「ん?仕事。」


(そんなの分かってるよー!何のお仕事するの?)


「さあね。なんせ俺、この会社に入ってまだ8日目だから。」


この世に生れ、企業という組織の一員になってから、


俺は4つほど、その企業という組織を渡り歩いた。


転職というやつだ。


初めて転職を考えたのは25歳のとき。


技術者思考だった俺は、やる気と希望に満ち溢れて、


現状に満足せず、もっと上流の技術に触れたくてその類のIT企業に転職した。


今となっては、その気持ち自体が皆無なのだが。


何故あのときはその気持ちがあって、今は無いのだろう?


分からない。


考えるだけでイライラしてくる。


(まあまあ、そんな昔のこと考えてイライラしない!)


「人の心の中を読むんじゃない」


(だって、すごい出ちゃってるんだもん。読むつもりが無くても読めちゃうよ。)


「・・・そんな出てた?」


(顔にも出てるよ。ヒヒヒ。)


何なんだ、その笑いは。


(あんたはその頃に戻りたい訳?)


「分からん。」


(ふーん。)


「・・・・」


(結局さぁ、やりたいことはそれだったんだろうけど、


それとは別に、やるべきことがあったんじゃない?)


「どういうこと?」


(やりたいことを追い求めた結果で今があるなら、


今存在しているあんたは、本当にやるべきことをやらなかったんじゃないかな?


本当にやるべきことが見つからない限り、その気持ちは何も変わらないと思うし、


これからも同じことを繰り返すんじゃない?)


「じゃあ、俺は何をするべきなんだよ?」


(そんなのあたしが分かる訳ないじゃんwww)


「ですよね。」


少しだけ苛立ちながら、喫煙所の灰皿に吸い終えたタバコを押しつける。


「俺が本当にやるべきことねぇ・・・」


(さあ、遅刻しないようにそろそろ行くよ!新人くん!)


「お前が言うな。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る