第2話 前世と来世


なにが一体どうなってるんだ

ここは学校か?

確か俺は病院のベッドで寝ていたはず...


それに、この体だってメガネをしているから自分のものじゃないとすぐに分かった。

オマケに学ランまだ羽織っている。


見たところ中学校だろうか。


頭の中が全く整理できないまま、息子の颯太は隣の空席に座った。


無意識に息子の横顔をじっと見つめると、混乱していた頭もやがて冷静になっていき、大きくなった息子を目に出来たことに喜びを覚えた。


すると、颯太が視線を感じたのか、こっちを振り向き目があってしまった。


「じっと見ないでくれる?」


「あ、あ、ごめん」


あんだけ小さかった颯太が、急に大人になって現れ、父親の健を叱ったことに複雑な感情が交じる。


結局授業が終わるチャイムが鳴るまで、健は

状況整理に頭がいっぱいだった。


じっと椅子に座り、横目で息子の颯太を眺めていると女の子の声が聞こえてきた。


「中島くん、さっきは大丈夫だった?」


振り向くと、そこには小さな背丈の女の子が立っていた。いや、今の健の背丈だと一緒くらいかも知れないが。


「え、あ、俺?」


「はい?何言ってるのよ、あなたしかいないでしょ」


健から見たこの子の第一印象はどこか大人の雰囲気が混じったお節介焼きなんだなと思った。


「え、あー!そうだよな!うんうん!大丈夫!気にしないで」


とにかく話を合わせようとしたのが、それが失敗だったらしい。


席を立ち、怪しまれないうちに離れようとしたが、遅かった。


「ちょっと、中島くん」


健は肩を掴まれた。


やばい、やらかした


何を言われるのかとヒヤヒヤしていると「ちょっとこっちにきて」と、まさか呼び出しを食らってしまった。



女の子と共に教室を出て、小さな後ろ姿に渋々付いていくと、連れてこられたのは階段裏、見たところ掃除道具入れなどが置かれている場所のようだ。


もし2人がこんなところにいるのを誰かにでも見られたら、その者は告白シーンと勘違いして、瞬く間に噂が広まってしまうだろう。


しかし、この女の子はそんなことを気にする素振りも見せず、堂々とここまでやってきたのだ。


実際自分が立ってみて気づいたが、この体の持ち主である中島くんという男の子は学校でも身長が低いほうなんだろうと思った。

それは、ここにくるまでに何人かすれ違った男子生徒の背丈を見ればわかった。


しかし、今目の前にいるこの女の子は、中島くんという子よりも一回り背丈が低い。

見たところ150cmもなさそうで、おそらく140後半といったところだ。


そんなちっちゃな女の子は見た目とは裏腹に、頼りになるお姉さんと言った感じで、 またそれがいわゆるギャップ萌えというやつなのだろう。


健は別にロリコンと言うわけではないが、もし自分が学生時代にこの子に会っていたら、もしかしたら恋をしていたのかもしれないななどと呑気なことを考えていると女の子が口を開けた。


「ねぇ、中島くん、昨日の告白の返事今貰える?」


「へ?」


なんということだ。中島くん、君も隅に置けないな。


メガネのレンズ越しに映る小さな女の子は照れる素振りも見せず、ただ健の返事を待っていた。


ど、どうすればいいんだ...まさか告白の返事が聞きたくて俺をここまで連れてきたなんて。


健はてっきり、中身の人間が中島くんではないことがバレてしまってそれを問いただされるとばかり思っていたから、ここに来るまでの道のりでどう言い訳するかだけしか考えていなかった。


ここでもしYESを出してしまって、中身が中島くんに戻った時、混乱してしまうだろう。それはNOを出してしまった時も同じだ。

今ここでとる最善策はやはり、まだ考えている途中と告げること。

よし、それでいこう。


「ごめん、まだちょっと気持ちの整理がつかなくて、もうちょっと考えさせてくれるかな」


ふっ、われながら完璧な回答だ。ちと大人すぎる回答だったらだろうか。

中島くんがどんな人物かは知らないが、とりあえずこれで一時は逃れるだろう。


しかし、目の前にいる女の子の方が大人だったことに思い知る。


「ふふ、やっぱりね、あなた中島くんじゃないでしょ」


なんだと!?

この女ハメやがった!

こんな小さな体をしていながらなんという悪質なことをしやがるんだ。大人をからかうもんじゃないぞ。

いやいや、今はそんなことを考えている場合ではない。早速バレてしまった。てか、そもそも様子がおかしいだけで、よくも俺が中島くんではないと分かったな。


そんな疑問が生まれた。


「ど、どうして分かったんだ?」


「バレバレよ、授業前の中島くんと比べたら全く様子も喋り方も違うんだもの」


「それでも、なんで中身が違うって分かるんだ、非現実的すぎるだろ」


「だって、私もあなたと同じだもの」


女はふふん、いたずらっ子のような笑を浮かべた。


「な、なんだって?俺と同じ?中身が違うのか?」


「そうよ、私も本当の体はこんなミニサイズじゃない、死ぬ前はもっとナイスバディだったのよ」


女はそう言って、何も無い体をハニートラップを掛けてくるかのように魅せつけてきた。


セーラー服越しにあるだろう浅い傾斜に何も感じなかったが、女が言ったことに1つ引っかかった。


死ぬ前は?


この女は死んでからそんな小さな体になってしまったというのか。

だったら、やはり俺と状況は一緒じゃないか。

俺もずっと病院のベッドで寝ていて、颯太と妻が来たことを確認すると、すっと意識が消えた。

そして、目が覚めるとここにいた。


「やっぱり君も死んだんだな?」


「そう、私は死んだ、それで1か月前に目が覚めたらさっきのクラスにいてこんな体になってることに気づいたわ」


「それから君はどうしたんだ?」


当然の疑問だった。急に小説みたいな状況になってしまってどうするべきなのか。健にも知る必要があった。


「とりあえず私はこの子になりきって生活してるわ、誰にもバレないようにね」


よくそんなことができるなと感心したが、根本的なことは何も解決していない。どうすれば元に戻れるのか。なぜ、こうなってしまったのか。


「それで、なんでこうなってしまったんだ?俺たちは死んだはずだろ?」


廊下で鬼ごっこを爛々と楽しんでいる中学生たちの声に混ざって言った。


「分からない...でも1つだけ分かったことがあるの」


「なんだ?」


女が健の目を見据えて、思わず健は唾を飲み込んだ。


「クラスに、ちょっと体格のいい不良がいたの覚えている?」


健は1時間しかいなかったクラスの状況を思い返してみる。

隣にいる息子の颯太ばかりのこと気にしていたので、そんな輩がいたことは分からなかった。


健は首を横に振った。


「そう、実はそいつ、授業が始まる前、まだあなたが中島くんだった時にカツアゲしようとしてたの」


「おお、そうなのか」


さほど、驚きもしなかったが、この中島くんがひ弱系男子だったってことは分かった。


「っで、そいつは私の息子なの」


ふむふむってえ!?


「な、なんだって?そいつが君の息子なのか!?」


急にカミングアウトするもんだから健は変な驚き方をしてしまった。


っとなると、どういうことだ?また新たな共通点が出来てしまった。クラス内に同じ息子がいるということ。


まるで、特殊な参観日に来ているみたいだった。


「そう、そのヤンキーが私の息子。私は息子が小学2年生の時に事故で死んじゃって、それで目が覚めたらさっきのクラス、オマケに大きくなった息子に出会って吃驚よ」


女がヤレヤレとため息をこぼした。


「つまり、目が覚めたらそこには息子がいたってことか、俺と同じだな...」


「やっぱりそうなのね!」


女はそう予感していて見事的中したようで、歓喜していた。


「おお、さっきの転校生、大野颯太が俺の息子だ。俺達は息子を目にしたことをきっかけに魂が体に乗り移ったってのか?」


「うーん...」


女が腕組みをして深く考える。


「私ずっと考えてたんだけど、この体は来世の自分じゃないかって思うの」


「来世?」


思わず健は裏声でオウム返しをした。


「そう、息子の姿見たことをきっかけに前世の記憶を取り戻した。私はそう思ってる」


なるほど、そう一瞬思ったが、すぐに健はおかしいことに気づいた。


「ん?いや待てよ、だったらおかしい、この体の持ち主の中島くんと颯太は同い年だ。俺が死んだのは颯太が3歳の時、つまり中島くんもそれくらいの年ってことになる。前世もなにもその時には既に中島くんは存在していた。」


「来世って死んでからそうなるんじゃなくて、死ぬ前にはもう来世が始まってるんじゃないかしら」


「うーん...」


今度は健が頭を悩ませる。どうにも腑に落ちない。来世は死ぬ前から始まるって、またおかしな話だ。でもそう考えないとこの状況に陥った原因がわからないのも確かだ。


そこで、健は新たな疑問が生まれた。


「そう言えば俺達以外にこんなことになってるやつはいないのか?」


女は首を振って「ううん、多分私達しかいない、分からないけど、探してみたらいるかも」


もしいるのだとしたら、この状況をどうにか解決する方法を共に見つけ出したいものだ。

いなければ、最悪2人で考えるしかないけど。


「多分私達が前世の記憶を取り戻したことには他にも意味があると思うの」


「意味?なんだそれは」


頭を悩ませている健に、容赦なしに話を進める女。


「分からないけど、きっとなにかあるはず。その目的を達成すれば元に戻れるとか」


そこまで話をしたところで校内にチャイムが響き渡った。


廊下にいる中学生たちがドタバタと各々の教室に戻っていくのが分かる。


「やばい、チャイムがなった、とりあえず戻らないと」


「そうね」


健達も階段裏から出て、生徒たちに紛れて走り出す。


ふと、昔の記憶が蘇った。

それは、まだ息子も妻とも出会っていない中学時代のころだ。

こうやってよく校内を走り回ってはよく先生に叱られたものだ。


そんな懐かしい記憶を辿っていると健は1つ聞き忘れていたことを思いだした。


「君、名前は?」


前を走る女は体を若干捻りながら、こっちを振り向くと『橘 桜よ』と言った。


その名はどっちの君のものだろうと思ったが『そうか』と一言だけ添え、2人は教室に戻った。


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ワールド・クロス 池田 蕉陽 @haruya5370

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