第3話
「キノンドー水和剤持ってきて。」
「は、はい?」
――初めて聞いたんですけど。
「キノンドー水和剤!」
「どこにありますか?」
「目の前にあるでしょ。」
「はい?」
目の前にはいつの間にかキノンドー水和剤と書かれた箱が山積みになっている。
「これですか?」
「そう、それ。」
――これってなんの薬剤だ?
「それじゃあ、枯れそうになった松にあげてきて。」
「これって、どうやって使うんですか?」
「そんなのも知らないの!?」
「逆に知ってる人の方が少ないと思いますけど!?」
「そんなもんなの?」
「多分・・・」
――農業とかやってないと分からないよね?
「えっとね〜ネットで調べてみて。」
「ネットって・・・」
「ワタシ、イソガシイカラ。」
「嘘つけ!」
「ウ、ウソジャナイヨ?」
「じゃあなんでカタコトなんです?」
「ソ、ソンナワケナイヨ?」
「じゃあ、さっきの発言もう1回聞きます?」
「どうやって・・・?」
私はポケットに入れていたボイスレコーダーを出した。
「これで。」
「そんなものをいつの間に・・・!」
さすがに驚いたようだ。
「先生、急患です!」
「分かった。」
「君じゃなくて・・・近藤さん、お願いします。」
「ってことは、人間の急患なのね?」
「はい。1分後に到着します。」
「研修医、君も来て。」
「わかりました。」
――この病院って人も診てるのか?
「なあに、今回はそんな大した急患じゃないから、緊張しないで。」
「は、はい。」
――この人も医者なのか?
「来たね。」
「はい。」
私が来て初めての急患は近藤さんの足を引っ張ってばかりだった。まぁ、俺は点滴やらなんやらを持ってきて投与する麻酔科医みたいなもんだったが。
「終わったね。」
「はい・・・。」
「今回はしょうがないね。」
「すみません。」
「後悔するのはいいけど、患者さんにまで心配されたらダメだよ?」
「はい。」
「さて、昼でも食べっかな〜」
そして近藤さんは売店の方へ歩いていった。
しかし立ち止まり
「食べに行かないの?」
食欲があるわけがない。
「ほら来る。」
腕を引っ張りあげて俺をずっていく。患者さんまでドン引きである。
「あの・・・」
「なに?」
「恥ずかしいんですけど・・・」
「だから?」
「やめてくれません?」
「なら自分で立ち上がってみて。」
この間も引きずり回しっぱなしである。私を引きずり回すというのは近藤さんもなかなかの体力である。
「あの・・・」
「今度はなに?」
「立ち上がれないんですけど・・・」
「そりゃそうだろうね。」
「分かってるならやめてくれません・・・?」
「嫌だよ?」
「パワハラで訴えますよ?」
「げっ!それは勘弁。」
ようやく腕を離してくれた。
「売店で何か買って食べちゃおうか。」
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