讃良の即位
六九〇年一月一日。讃良は飛鳥浄御原宮で即位の儀を行った。
志斐ら采女にかしずかれて、正装に着替えた讃良は、大殿から中庭に面した廊下に出た。
紺碧の空は晴れて雲一つない。
冷たい空気が身を引き締め、吐く息は白くなる。大空から鳶の甲高い鳴き声が響いてきた。
讃良が大殿から姿を現すと、中庭は水を打ったように静かになった。
草壁を天皇にすることはできませんでしたが、草壁は珂瑠を私に残してくれたのです。珂瑠のために中継ぎの天皇になったと陰口をたたかれてもかまいません。私は珂瑠を天皇にしてみせましょう。
子麻呂の柏手が浄御原宮に響き、次いで群臣たちも柏手をたたいた。
最前列にいた
「
と結んだ。
風は止み、暖かい陽の光が浄御原宮に降り注ぎ、
讃良は神器を受け取った。
大伴手拍が「ただいま、皇太后様は天皇に即位なされました」と大きな声で宣言すると、群臣と百官は拝礼し柏手を打った。
群臣を代表して
「
群臣の最前列にいた高市皇子は一歩前に出ると、讃良に対して深く頭を下る。
「太政大臣の職を謹んでお受けいたします。よろしくお引き回しください」
「左大臣は空席、右大臣には
丹比嶋は恭しく頭を下げた。
ゆっくり息を吸い込むと、冷たく新鮮な空気が胸の中に入ってくる。
私の日本国。残りの人生のすべてをかけて、我が国の形を創ってゆきましょう。
雅楽が演奏され、浄御原宮は華やいだ雰囲気に満ちる。風が出て、旗や幟が軽快になびき始め、讃良の顔を春の日が照らしてくれた。
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