4.

 眠たいような気持ちのまま、気がつくと、左手に見える空の色が変わりはじめていた。ずっと森が続く地平線の近くから、紫に染まっている。

「ゆうやけ……?」

 呟きは掠れて、いまいち力が入らない。

「そうだ。私は今、北に向かっている。陽は、そなたの右だ」

 鳥は、空を滑りながら答えた。柚香はゆっくりと、こわばった身体を起こす。ひょっとしたら、知らぬ間に眠っていたのかもしれない。

 くうっと背筋を伸ばした。さすがに、両手は羽毛を握ったままだ。正面の空は紫がかった薄紅だった。

 ふっと息をついて右に目をやった柚香は、そのまま、動けなくなった。

「すごい……綺麗」

 一面に広がる海と空が、同じ緋色あけいろで輝いていた。

「美しいな」

 鳥は、何かを懐かしむように応えた。

 緋色は黄、橙を経てから、一線を越えるとふっとぼやけて、少しずつ青になる。浮かぶ雲は金に光って、目が痛いくらいだった。二人は、刻々と色を変える世界を、黙って見守っていた。

 柚香がふわりと笑みを零した。

「誰かと一緒に見るのって、いいな」

 同じこの光景を噛みしめる者が傍にいる。それだけのことが、温かい。

 鳥もきっと、同じように感じてくれていたのだろう。応えた声は、優しかった。

「そうだな。分かちあう者がいることは、それだけで幸いだ」

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