デス・アンド・リバース
「プーさ……じゃなかった熊野中尉‼」
そう! 手袋をした手で軍曹の拳銃を構えるでっぷりと太った中年士官!
少尉不在の折に代理室長を務める熊野中尉の姿がそこにあった!
「よく木口のジジイまで辿り着いたな。それは褒めてやろう。しかしそのジジイは私の操り人形に過ぎん。私の方が一枚も二枚も上手だったな」
「ストーム25は……あなたが?」
「そうとも。遠大な計画のほんの手始め……ネオ・ジャパニスム計画の序章」
「ネオ・ジャパニスム計画?」
「冥土の土産に教えてやろう。ストーム25で画像や音楽に賞金を出し徐々にその額を上げ……創作を志す者を多数参加させる。十分に参加者が集まったら、繰り返し日本的な表現が優勢となる審査をする」
「……なんだと?」
「様々な作風だった連中もこぞって和風の作品を創るようになる」
「馬鹿らしい! そう上手く行くもんですか!」
「そうかな? 来月からは毎週開催され、上位五名に10万ずつの賞金が出る……上手くすれば創った作品で食って行ける。素人クリエイターにとってみれば作風を多少変える位の価値のある条件じゃないか? しかも参加者が増えれば、まだまだ賞金の額も貰う人数も増えて行くんだ。そして年内に、ストーム25は世界に進出する。神辺の衛星通信所を拠点にな」
「衛星通信所? その計画は頓挫して……あ!」
「気付いたか? 神辺のパラボラの予算は備管別の新型PCに回される。困るのだよ。子供の遊びの見張りなどしてる部署の過ぎたオモチャに、我々の予算をつぎ込まれては!」
「それで少尉を……」
「木口が加藤を仇と狙っているのは好都合だった。自由になる銃を与え炊き付けたのは私だ。ストーム25をさも木口が主催かのように偽装し君達が木口を疑うよう仕組んだ。木口が君達を消した所で、私が木口を自殺に見せかけて始末する。……復讐者の執念が備管別を殺すのだ」
熊野は満足げに口を歪めて笑った。
「流れから行けば備管別は私が引き継ぐことになるだろう。終戦後、時期を見て不要撤廃を具申すれば通らないとは思えない。衛星通信所の予算工作も順調に進んでいる。あとは……君達二人に消えて貰うだけだ。シナリオは少し変わるが、まあ誤差の範囲だろう。君たちには、木口兵站長と相打ちになって頂こう」
「まだ少尉が生きてる! 例え我々が倒れても、少尉が居る限り備管別は不滅だ!」「ふ。はははは……!」
「何がおかしい!」
「かわいそうに……基地のイントラを見てないのか? つい先程、君達の少尉は亡くなったぞ?」
「……え?」
「嘘だっ!
「石野司令から
がくん、と二曹が崩折れる!
その顔は蒼白で、唇はわなわなと震えていた!
「嘘……そんな……少尉が……少尉が……」
「しっかりしろ二曹! 嘘に決まってる! 動揺したらあいつの思うツボだ!」
「信じようと信じまいと、どのみち君達の命運ももう尽きる」
熊野中尉はシグ・ザウエルP226-SCTのスライドを少し引いて、薬室に装弾されていることを確かめた。
その一瞬の隙を突いて、軍曹は短く二曹に囁く!
『二曹、僕があいつに突っ込む。合図したら全力で走って逃げろ』
『そんな!』
『命令だ。つべこべ言うな! 合図を待て』
「お喋りはここまでだ。二曹はどうやら少尉にご執心のようだな。私からのせめてもの手向けだ。まずは君から……少尉の元に送ってやろう!」
「二曹! 走れ‼」
「軍曹、ダメッ‼︎」
【パァァンッッ‼】
「うぁっ!銃が⁉ ……誰だ!」
絶体絶命のその時!
何者かの銃撃が、熊野中尉の拳銃を空高く弾き飛ばした‼︎
「お前は……ブラックライダー!」
そう!
軍曹が叫んだ通り、黒いレーシングスーツに身を包んだヘルメットの人物!
ライフルを構えて夕陽をバックに現れたその男!
それは軍曹たちが追いかけた黒いバイクのブラックライダーに他ならなかった!
「どうして……木口兵站長ならそこに倒れてるのに……」
「よく頑張ったな軍曹、二曹。もう大丈夫だ」
ブラックライダーはそう言うと、ヘルメットを脱いだ!
熊野中尉は驚愕して叫んだ!
「ばっ……馬鹿な! 貴様は……死んだはず‼」
「少尉っっ‼」
だが、重なった軍曹と二曹の叫びは喜びに満ちていた!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます