魔弾の射手
翌日!
シフト上、軍曹は休みであり備管別は終日、少尉と二曹の二人体制だった!
「TLに関連ツイートなし。mrp値0.6から0.9前後で微動。回線負荷平常。笠岡沈黙。転送、ありません」
「確認した。一人で問題ないか? 二曹」
「はい。やはりTLが絡むと状況が刻々と変化するのでやや忙しいですが、許容範囲です」
「まだ先は長い。気張る必要はない。落ち着いてやればそれでいい」
「了解」
***
「mrp値、直近3時間は1以下で推移。回線負荷異常なし。笠岡よりの転送、ありません」
「了解した。うちも三人体制が板に付いて来たな。二人ではどこか物足りない」
「軍曹、すごく派手な見た目ってわけでは決してないですけど、なんか存在感ありますもんね」
「それに仕事はできるスタッフだからな。二曹も優秀で助かってるが、軍曹は二曹とはまた別の方向性で頼りになる」
「はい。そう思います」
「あれでもう少し真面目なキャラクターならな」
「心中、お察しします」
***
「お疲れ様でした」
「ああご苦労だった」
退勤後、少尉は二曹のをねぎらった後、すこし思案するそぶりをした上で再び彼女に声を掛けた。
「二曹、実はな……」
少尉が言葉を発したのとほぼ同時に、基地駐車場に車のクラクションの音が響き渡った!
【プ!プー!】
「あの車は……」
「遠藤准教授のセダン、ですね。なんでしょう」
「仲本さ〜ん! これ! これ!」
「あ! 私のハンカチ」
「助手席に落ちてて」
「わざわざすみません。勤務終わりを待っててくださったんですか?」
「まあそうですけど、今日は僕もさっき終わったんです」
「もうついでに駅まで送っちゃって下さい」
「二曹。なんか投げ遣りじゃないか?」
***
>お題を決めて24時にPOSTする遊び 『ストーム24』
>31回目の今夜のお題は秋春さん(@AKIHAL64bit) 提供
>『ことば』
>参加表明不要の自由参加です。
>#stom24 のタグをつけて下さい。
>お題そのものは入ってなくてもOKです。
「バイパスをもう一本確保だ。18号線がもたない」
「了解です。MKK東広島のコントロールセンターに連絡します。二曹、ちょっとの間頼むね」
「了解」
「確保できたらADDI-601番か901番までの負荷をそちらに回してデータ量を耐荷重以下に保つ」
「回線賃貸可能です。時間あたり18万円」
「24時を挟んで前後1時間30分、合計3時間を押えろ」
「了解。伝えます」
「邪魔をするぞ」
「石野司令!」
少尉は驚いて来訪者の名を呼んだ。
「私は放っておいていい。ぜひ一度見ておきたくてな。噂のストーム24を。いつもどおりやれ」
「……了解しました」
「5分前。暗転します」
>大変長らくお待たせ致しました。
>間もなくstom24の開演です。
>今夜のテーマは「ことば」。
>今宵も、今日と明日のはざまに煌めく詩と歌の競演を、どうぞごゆっくりお楽しみ下さい。
めくるめく表現の狂想曲!
備管別の三人は限られたリソースを巧みにマネージし、情報インフラに決定的なダメージが生じるのを防ぐ!
今夜も才能の煌めく電子の嵐は無事にwebを駆け抜けて、備管別はその役割を果たした!
「なるほど……総理が入れ上げるわけだ」
祭りの後片付けもひと段落しようとしたころ、ぽつり、と司令がつぶやいた。
「総理が……ですか?」
「知らなかったのか少尉。熱心なファンだという話だ。毎回必ずチェックなさっているとか」
「回線負荷、全セクション基準値を下回ります。mrp値、84……83……82……下がり続けています」
「よし全セクションデフコン解除。チェックシークエンスの後、通常シフトへ」
「了解」
「了解」
「少尉、備管別のクローズが終わったら執務室へ。ストーム24について幾つか確認したい」
「了解しました」
「……もう」
二曹のぼやきは小さく、それに気づいたものはいなかった。
***
翌日!
「おはようございます。少尉」
「おはよう軍曹。変わりはないか?」
「備管別室長宛てに郵便が幾つか」
「二曹は遅番だったな。……ん?」
「どうしました?」
「差出人のない封書。切手も消印もない……。これは……」
「見せて下さい。うわ! 脅迫状?」
それはまさに脅迫状だった!
一昔前の映画にでも出てきそうな、新聞の題字を切り抜き、張り合わせて作られた、絵に描いたような脅迫状そのものだった。
『手ヲ ひケ すトーム25 かRA』
「……なるほど、こう来たか」
「切り抜き活字の貼り合わせ……昔のサスペンスか探偵マンガみたいっすね」
「今時……だな。キタグチって奴はそれなりに年配なのかもな」
「情報発信もラジオですしね。一世代前の臭いがします。どうします? 調査は……中止に?」
「こんなセコい脅しに一々構ってては備管別は勤まらん。調査は継続。開催そのものを押さえて参加者に接触を試みよう」
「了解」
***
「ストーム25に興味のある第三者のフリをしてSNSで質問、拡散依頼。並行して知恵袋に質問を登録しました」
「中央郵便局に連絡して、東福山駅周辺の違法電波の状況を問い合わせろ」
「郵便局?」
「電波通信の主管は郵政省だ」
「了解」
「キタグチ……きっちり追い詰めてやる」
***
「中央郵便局電波通信課より回答。ここ半年ほど、120メートルバンド……2300から2495メガヘルツの周波数帯域の違法放送が週1回から2回のペースで観測されているようです。ただ、一般に使用されてないチャンネルで実害がない為、事実上放置されているようですが」
「中波短波の境界……なるほどな。違法電波のペースや時間帯に法則性は?」
「そう言われると思って直近二ヶ月分のデータを貰いました。メインに出します」
「……曜日や日付はマチマチだが、開始時刻は決まってマルヒト。25時からか」
「曜日は土曜と日曜の未明が多いですね。深夜企画らしく」
「ストーム25。尻尾は掴んだぞ」
「放送周波と開催タイミングが分かれば、放送自体を聴いて、参加者のハンドルネームをSNS等で追いかけるわけですね」
「その通りだ軍曹。判断が的確で速い。情報技術も一流。私はいつでも引退できるな」
「そんな……少尉には居て貰わないと困ります! 二曹も辞めちゃう‼」
「正直は美徳だが、君は社会性と折り合いをつける努力をしろ」
***
「おはようごだいます少尉」
「おはよう二曹」
鼻詰まり気味に挨拶しながら現れた二曹は大きなマスクをしていた。
「あれ? マスク? それにその声」
「少しこじらせてしまいばした……でも平気です。任務には支障ありばせん。……あ」
席に着こうとした彼女はフロアの段差に足を取られ、ふらついた!
【フラッ】
「おっと」
近くにいた少尉は咄嗟に身を寄せ、倒れそうになる彼女を支えるように動いた!
「あ……少尉。ありがとうございます」
「大丈夫か? 顔が真っ赤だ。体温も……高いようだぞ」
「だ……大丈夫です」
「そうは見えん。今日は上がったらどうだ?」
「大丈夫です! 午前中に病院も行って来ばした」
「しかし……」
「大丈夫です!」
「……分かった。ヒトナナまで様子を見よう。その時点で私が無理と判断したら帰れ。いいな」
「……了解」
「二曹。午前中の引き継ぎよろし?」
「お願いします軍曹」
***
時刻は夕方4時を回る!
だが、やはり二曹の体調は良くないままだった!
「二曹」
「…………」
軍曹の呼びかけに、二曹は気付かない!
「二曹」
「…………」
「二曹ってば!」
「あ! はいっ!」
「なんか来てるよ。笠岡から」
「え! あ……かっ、笠岡より入電! ストーム、じゃなかったフォックス2のPOST。……すみません」
「確認した。二曹。今日はもう上がれ。命令だ」
「……はい。少尉」
「ゆっくり休んで早く治しな」
「ありがとうございます、軍曹」
備品管理部別室を出る二曹は少尉の後ろ姿を振り返り、ため息をつくと基地を後にした。
「笠岡より入電。フォックス2のポスト」
>仲良くなるほどに縮まる距離
>仲良くなるほどに忘れる気遣い
>丁度良く仲良く、丁度良く気を遣う
>そんな間柄こそ、長続きするのだろう
「仲間との別離、か」
「あれ?……恋人の話では?」
「ああ、そうも取れるな」
「もしかして昔の少尉と司令とか、丁度こんな感じだったんじゃないですか?」
「……司令と付き合っていたと言った覚えはないぞ」
「明確に否定しないのは、肯定したのと一緒ですよ」
「…………」
「沈黙もまた答えです」
「……君のボキャブラリーは何から来てるんだ?」
***
翌日!
軍曹は休み、二曹と少尉の二人体制!
だが、二曹は昨日よりずっと調子が良さそうに見えた!
「mrp値1.3以下で細動。回線負荷、平日同時間帯平均レベル。笠岡沈黙」
「うん。体調は悪くないようだな、二曹」
「点滴が効いたみたいです。あと鼻だけまだ……今日は軍曹休みですし、いつまでも甘えられません」
「甘えてるとは思っていない。軍曹と私だけの頃は、どちらか一人で回すようなことも普通にあったんだ。無理せず、体調の悪化を感じたら申告してほしい」
「お気遣いありがとうございます。そうします」
***
「フタサン回る。mrp値1プラスマイナス0.5で微動。笠岡沈黙。開催の兆し、ありません……しゅん」
「了解だ。現体制のまま引き続き監視を継続。二曹、辛くはないか?」
「問題ありません。……鼻が詰まる以外は」
「クローズ含めあと二時間足らずだ。頑張ってくれ」
「了解」
***
そして何事もないまま、備品管理部別室は当日の業務を終えた!
「お疲れ様でした」
「ああ、ご苦労だった」
「結局今夜もストーム24はありませんでしたね」
「ペースを下げる、と言うツイートの通りだな。駅まで送ろう。二曹」
「え⁉」
「不都合か?」
「いえ……あの、念の為、もう一度おっしゃって頂いていいですか?」
「良ければ私が君を駅まで送る。……何をキョロキョロしてる?」
「割って入る誰かが居たりしないかと」
「生憎と我々二人だけだ」
「違います、そう言う意味では……」
「実はな、私は前から一度、君をちゃんと送って謝りたかったんだ」
「謝る? 何故ですか?」
「君が初めて備管別のヘルプに来た夜。私は君に無礼な態度を取って歩いて帰らせた。憶えているか?」
「はい。でも、あれは……」
「軍曹の言う通り。何かとかんぐり過ぎるきらいが私にはあるようだ。高木少佐の事件の後でナーバスになってたとはいえ、結果的に味方の君を敵あつかいして無道な言動をしたことを、許して欲しい。すまなかった」
「少尉、ちょ……やめてください! どうかお顔を上げてください! 許すもなにも……謝らなきゃいけないのは私です。事件が終わるまで身分を偽って。少尉と軍曹を……騙していて」
「それが君の任務だ。君が謝る筋合いはない」
「なら少尉のなさった態度も部署の責任者として……いえ、優秀な情報士官としての態度です。少尉が謝る筋合いはありません」
「こうして話してみると我々は、互いに小さなわだかまりを抱えていたんだな」
「みたいですね」
「もっと早くこういうタイミングが取りたかったんだが……間が悪くてな、随分時間が掛かってしまった」
(本当に)
二曹は少尉の生真面目な様を好ましく感じながら、心の中でそっとそう付け足した。
「あの晩の分と言う訳じゃないが。二曹。今夜は改めて駅まで……」
少尉がそこまで言ったその瞬間!
【パァンッ! 】
一発の銃声が大気を叩いて響き渡った!
少尉の胸に真っ赤な血の花が咲く!
「ぐ……!」
「え……?」
少尉は呻く!
二曹は事態が呑み込めない!
【パンッッ!】
もう一発、肩口から血を吹き上げた少尉がドサリと地面に倒れ込む!
温かな鮮血の飛沫が二曹の頬に当たって、彼女はようやく目の前の事態の意味を理解する!
「少尉?……少尉! しっかりして下さい‼︎ そんな……いやです……少尉! 少尉ぃぃぃっっ‼ 」
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