ストーム25
「少尉。私と一緒に来い。上官と部下じゃなく、パートナーとして……私を支えてくれ」
少尉の元恋人ではないかと噂されていた女性新司令、石野涼子情報大佐!
その襲来はあまりにも突然!
そしてあまりにも強烈だった!
彼女は自然な会話の中で少尉が独り身なのを確認すると、即座に告白したのである!
それに誰よりも早く反応したのは二曹だった!
彼女は椅子を鳴らして立ち上がろうとした!
言うべき言葉などない!
取るべき行動などない!
彼女自身も何故そうしようとしたのか分からない!
背筋を焦がすような衝動が、彼女が彼女自身を御する全ての統制を超えて、彼女を突き動かしたのだ!
だが、そんな彼女の動きをいち早く察知し、その突飛な行動が目立たぬように対応した人物がいた!
軍曹である!
彼は手元のコーヒーカップを派手に倒すと、その中身をデスクの上にぶちまけ、小さく叫んで立ち上がった!
「うわぁっ、やっちった!」
結果、コーヒーがこぼれ、軍曹と二曹が立ち上がったような状況が出来上がる!
全ては、新司令が少尉に告白してから二秒と立たない間の出来事であった!
「すみません! コーヒーひっくり返し返しちゃって……二曹、片付け手伝って」
「……」
「ほら、早く」
何か言いたそうにした二曹だったが、軍曹にはっきりした口調でそう促された彼女は、彼の言葉に従ってこぼれたコーヒーの片付けを手伝い始めた。
「火傷してないか? 気を付けたまえ、軍曹」
「大丈夫です。お騒がせしました」
「情報大佐……先程のお誘いは……本気ですか? 冗談でなく?」
「冗談でこんな恥ずかしいセリフが言えるものか。私はこんな性格だから、家庭に入って家事や子育て、なんて柄じゃないが。……学校を創りたいんだ」
「南スーダンに、ですか?」
「そうだ。学校はその国の文化を造る。校長は南スの民から然るべき人物を選ぶが……貴様には教頭を務めて貰いたい」
「私が……教頭? 教員免許もないのに?」
「そもそも教育制度がないんだ。免許もクソもない。もちろん経験ある補佐は付ける」
「……私は教育を
「俺は人格者だ、なんて言ってはばからないような奴こそ教員には向かない奴だ。貴様なら……新しい国の基準になれる。それに、な。私の相談役として近くに居てもらいたいんだ」
「情報大佐……」
「この七年、色々な奴が私の隣に居た。皆優秀で面白い奴ばかりだったが……結局貴様ほどしっくり来る男はいなかった」
「私は……」
「なに、返事は急がん。少なくとも、来年三月の年度末までは私もここの司令だ。それまでに考えておけ。今日……この後は空いているか?」
「は、特に予定はありません」
「久しぶりに一杯付き合え。貴様に聞かせたい話がごまんとある」
「それは喜んで」
「志村軍曹と仲本二曹だったな? 君達もどうだ? ワリカンなんてケチなことは言わんぞ」
「……折角のお申し出ですが実家から母が来ておりまして」
「すいません、自分もネットの仲間と約束が……」
「そうか。残念だ。私の知らない加藤少尉の様子を色々聴きたかったのだがな。次は付き合え。君らの上官の新米の頃の話を聞かせてやる」
「了解です」
「またお声掛け下さい」
「うん。少尉。私は本館の執務室にいる。終わったら迎えに来い」
「了解しました」
***
「お疲れ様でした〜」
「お疲れ様、でした……」
「ご苦労だった、二人とも。軍曹、二曹を駅まで送れ」
「了解」
「少尉、あの……」
「ん? どうした?」
「……いえ、なんでもありません」
「そうか。二人とも気を付けて帰れ。軍曹、安全運転でな」
「了解」
「了解」
***
「なんかすごい人だったなぁ、新司令。綺麗な人だし仕事はできそうだけど」
「私キライです。あの人」
「自分も苦手なタイプだ。あのちょっと強引な感じ。なんか喋りとか少尉に似てたよね」
「それ、多分逆です。少尉があの人から……学ばれたんでしょう」
「……そうだね。帰ろう二曹。今日も風が冷たい」
「はい」
***
軍曹が運転する真っ赤な軽自動車は助手席に二曹を乗せて走り出した。
「お母さん、お家にはいないんだろ?」
「軍曹こそ約束がある、なんて」
「だってあの二人の間に挟まれないよ」
「……ですね。ラジオ、ホワイトノイズですよ。消していいですか?」
「あ、違うよ。スマホから曲が飛ぶようにしてあるんだ。なんか聴く?」
「曲はどんなのが?」
「アニソンか特撮かデスメタル」
「遠慮しときます」
【ザ……ザザ……夜の】
「あれ? なんか拾った」
それは軍曹のカーラジオからだった!
空電のノイズに混じり、機械で調整されたような音声が切れ切れに聞こえていた!
【……ストーム25……テーマ……ザザ】
「テーマ……ちょっと待て、ストーム25⁉」
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