プロジェクト・サンシャワー
【『少尉と軍曹』はフィクションです。実在の人物、団体、機関、技術とは一切関係ありません】
「失礼します。遅くなりました。仲本ニ曹、タワー2にて笠岡との連絡をヘルプします」
「ご苦労」
「大変だね。広報の仕事の後、来てくれてるんでしょ?」
「いえ、どちらかと言えばこっちが本業ですし。それに私、ここに来るの嫌じゃない……というか楽しいです。……不謹慎かも知れませんが」
「楽しい?」
「許可する。ヘルプ業務の感想を聞かせてくれ」
「なんていうか……諜報に携わる人って影が濃い秘密を背負ってしまってるような人が多くて。関わると暗い気分になるんですが……お二人にはその影が、暗さがないように感じます。能天気なんじゃなく真実を知った上で明るい」
「…………」
「まあね♪」
「それにお二方それぞれ、すごく適材適所な感じがします。上手くは言えませんがずっとチームに混ざっていたくなる」
「おっと! それ位にしときな。少尉が変に勘ぐるから。『褒めて油断を誘って何を企んでいる?』とかなんとか。褒められなれてないからさ」
「軍曹……丸聞こえだぞ」
「失礼しました!」
「感想は以上です。少尉。あれから何か進展が?」
「この基地のサーバーに絞って『狐の嫁入り』に絡むワードで検索を掛けたんだ」
「それで?」
「収穫なしだ。残るは『Zドライブ』だが……」
「総監部直結の将官専用ドライブ、ですね」
「そ。でもまあモノがモノだし、流石に強引にハッキングしたりしたら後が大変。だから、待ち」
「待ち?」
「サブのAを見て。福島中将のデスクトップを遠隔してるんだけど……」
「中将がZドライブを開ける動作を……コピーする?」
「ご明察。流石察しがいいね。だから中将のドライブ開き待ち、さ」
「十分強引なのでは?」
「そうだな、二曹。だが選べる手段が他にない」
「リスクを冒しても何もないかも知れませんよ」
「何もなければ、それに越したことはないさ」
「にしても良くこんな反則思いつきますね、少尉。普段は歩く模範士官みたいなフリしちゃって」
「ずっと公務員だったわけじゃない。子供の頃は悪さもしてきた」
「少尉! サブスクリーンA! 司令がドライブを開きます!」
「アクティビティのゴーストを作成」
「了解。コピーツールを起動します。よーし目を見張れ! 『二人羽織』!」
「二人羽織……? これも軍曹が?」
「いや。これは友達に貰った奴。一昨年の誕クリスマスに」
「……変わったお友達ですね」
「変態は変態を知る、だ」
***
「司令がドライブを閉じました」
「アクテビティ・ゴーストは?」
「ちょっと待って下さい……OKです。Zドライブ、いつでも開けられます」
「アンロック開始」
「了解。イニシアライズ……アクセプト! Zドライブに侵入」
「『狐の嫁入り』関連ワードで検索を実行 」「了解」
軍曹が組んだルーチンが対象ドライブに対し「狐の嫁入り」の関連語で次々と検索を掛ける!
そして、一つの検索結果がスクリーンに表示された!
「ビンゴ! ワード『sun shower』にヒット! ……ファイルだ」
「……これは」
「Project Sun Shower……?」
「場所は、D.lotusってフォルダの中……あ、でもこのファイルしかないな」
「D.ロートス? 聞かない単語だな……開けられるか? 軍曹」
「さあ……幾つまで破っていいですか?」
「プロテクトか?」
「隊規です」
「破らないって選択肢はないのか?」
「少尉」
「どうした? 二曹」
「宜しければ……私にやらせて頂けませんか?」
「このファイルの解錠を?」
「はい」
「内調の君が……か」
「今はここの……備管別の二曹です! お願いします! 元々私は員数外。何かあれば私が責任を負います! だから、私にやらせてください!」
「…………」
「少尉!」
「軍曹。タワー2に現タスクを回せ。表示をメインに。軍曹はTLと笠岡を担当。表示はサブのAに」
「了解」
「二曹に命ずる。該当ファイルを解錠せよ。必要なあらゆる手段を許可する。だが、ここの、備品管理部別室の室長は私だ。これから起きることの全ての責任は私が持つ。二曹」
「はい」
「思い切りやれ」
「了解!」
「二曹、準備よろし?」
「いつでもどうぞ。軍曹」
「タワー1、タスクリリース。ナウ・ユーハブタスク。タワー2」
「コピー。ナウ・アイハブタスク」
「解錠開始」
「……行きます!」
二曹がそう言った瞬間、彼女のキーボードが歌うように鳴り始めた!
それに呼応してメインスクリーンには無数のウィンドウとダイアログボックスが一面に表示される!
ネットワーク上の「武器庫」に保管してある二曹独自のハッキングツールが続々と呼び出され、Zドライブの機密ファイルへと一斉に牙を剥いた!
軍曹がヒュウ、と口笛を吹く!
「器用だな。二曹」
「今開いてるウィンドウ……二曹が一辺に操作してるのか? これを、全て?」
「ツールそれぞれにコマンド出しちゃえば待ち時間ができるんで、キーを打ち続けるような作業は本来要らないんですが……その待ち時間の間に次々別のツールを呼び出して多角的に並列処理させてるみたいですね。ハイダーシーカーの製造元ってのはハッタリじゃなさそうです」
「見たことないツールばかりだ」
「ほんとですね。二曹オリジナルの非売品じゃないですかね」
ピピッ、と鳴って点滅するウィンドウがあった!
それは、アンロックすべき対象ファイルのプロテクトのタイプを表示していた!
「おー、早い! プロテクトの種類を特定した! あ、こりゃあ……」
「問題か?」
「久しぶりに見るな。マシンスピット型のダブルダッチ……古いやり方ですが面倒な壁です」
「マシンスピット……解錠コードを誤入力すると、以降その端末そのものがアクセス不可になる高排他防壁」
「中身はよっぽど大事な秘密ですね」
「……少尉」
「なんだ。二曹」
「ここからの手続き……複数の外部PCをクラックします。刑法を多数犯すことになりますが……」
「言った筈だ。必要なあらゆる手段を許可する。もう一度言うぞ二曹。思い切りやれ。これは命令だ」
「了解!」
「……やれやれ。二曹に甘いなぁ少尉は」
「軍曹。君の意見は訊いていない」
「ああ……なるほどね」
「外部PCを手当たり次第クラックして……スレーブ化してる?」
「結局解錠コード特定は総当たり戦ですからね。一台のスレーブからコードを試して、ロックされたら別のスレーブからまた試す……並行してスレーブ自体に外部PCをクラックさせてスレーブを増やす……」
「右下で増えて行く数字は?」
「このツールは自分も初めて見るんで……多分、現在のスレーブPCの数じゃないでしょうか?」
「分母が4200台……じゃあ分子の3000幾つが、コードを試してスピットされたPCの数か」
「これ……まだまだ増えますよ。倍々ゲームに近いノリで。二曹ったら……大胆。うわ……総回線負荷すげえ」
「スレーブ化されたPCも……あっと言う間に1万台超えか」
「我々は、歴史的瞬間に立ち会っているのかも知れませんね」
「歴史的瞬間?」
「これ、自分の知る限り史上最大の同時多発クラック事件です。良かったんですか? 責任持つなんて言って」
「…………」
「ああ……こりゃあ。茨の道だ。二曹、手伝おうか? 足跡のスイープだけでも」
「あ……お気持ち、だけ、頂いて……おきます!」
「クラックの痕跡を消して回ってるのか」
「痕跡消去の方が時間かかりますからね。ある程度オートのツールっぽいですけど、要所要所でタイプ判別とコマンドを求められる。のんびりしてるとPCの持ち主にスレーブ化がバレるかも知れないし、スピットされてからクラックの痕跡を消すまでのタイムラグを減らす為に、何箇所かエリアを区切って同時に処理させてるみたいですが、コマンドを出すのは一人ですから。長時間はキツイっすよ、これ」
***
「現在の総クラック台数が8万台……FWTよりずっとタチの悪い方法だな」
「FWTでクラックするのは実質、親玉の1台だけですからね。二曹。しんどかったら言いなよ。コード特定まで何時間かかるか分からないんだから」
「え……なんです?もう一度……あ、ダメ。こっちを……すいません。もう一度お願いします」
「大丈夫だ二曹。そのまま続けてくれ。軍曹。TLは平穏か?」
「mrp値、直近3時間は1以下で推移。笠岡からの転送もありません。全て正常」
「『D.lotus』について調べて見てくれ。TLに動きがあれば中断していい」
「おおなるほど! 了解。TLをサブAに。該当ワードの調査状況をサブのBに表示します」
「さて……鬼が出るか蛇が出るか」
***
「うーん……」
「何か分かったか?」
「微妙ですね……。検索すれば英語のサイトは幾つか上がって来ますが、本件と関係ありそうなものは……」
「D.lotusってのは何だ? 人物?」
「いえ。植物の学名……種小名みたいです」
「植物……ハスの仲間か?」
「違いますね。えと……マメガキ? 知らないなぁ」
「日本にも自生してる木の実の成る樹木だ。実家の庭にある。小さな……親指くらいの実は渋みが抜ければ中々美味だぞ」
「天気雨となんの関係が?」
「確か……私の母の地元では、マメガキの木の下でお鉢を被ると狐の嫁入り行列を見ることができるって伝承があったと聞いたことがある」
「狐の嫁入りが見える木……。フォルダの持ち主も少尉のお母上と同郷なのかもしれませんね」
「どうかな。この基地には私の知る限り……まさか‼」
「なんです?」
「いや……。なんでもない」
「絶対なんでもなくないでしょ? 教えてくださいよ」
「すまない。可能性でも言うに
「頑張ってますね。けどこればっかりは運も絡みますから……。二曹、ちょっと変わろうか? スレーブの拡散域をトレースしながら個別の痕跡消去のタイプ指定とコマンド出しをすればいいんでしょ?」
「……話し掛けないで下さい! すみません!」
「ごめん」
「現在32万台……か」
その時、鳥の鳴き声のような電子音とともに、画面の中央にダイアログボックスが飛び出した!
【UNLOCK COMPLETE】!
それを見た二曹が歓喜の声を上げた!
「……来た! ビンゴですっ‼ キーコード合致! オープンザ・セサミ‼」
「やったね! 二曹、ご苦労さん! もういいだろ? 足跡消し、手伝うよ」
「すみません……開いたはいいけど痕跡消去が全然間に合ってなくて……関東以北をお願いしていいですか?」
「了解。いいですよね? 少尉」 「許可する」
「二曹、続けて。こっちで割り込むから」「はい、お願いします。軍曹」
「最終クラックPC総数330万台か。派手にやったな。」
「真面目な子ほどタガが外れると極端なことするんですよね。……あ! ファイルの読み出しが始まりましたよ!」
「これは……⁉」
「そんな……まさか!」
「あちゃー……こりゃとんでもないファイル開けちゃいましたね。パンドラもビックリだ」
「講和当日……奪取した暗殺兵器でノキグチ同盟代表以下、主要幹部を暗殺……」
「その混乱に乗じ訓練名目で待機させた同志部隊による……武装蜂起⁉」
「占拠目標は主要放送局、新聞社、通信施設、発電所、水道局、ガス会社……皇居に国会議事堂」
だんっ、と少尉の拳がデスクを打った!
「クーデター! これが『プロジェクト・サンシャワー』の正体‼」
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