結婚式
ネットワークの海を監視する情報自衛隊の秘密部署、備品管理部別室!
少尉と軍曹、たった二人の非公然諜報部隊!
そこに現れた正体不明の新人二曹!
陸上装備研究所から奪取された暗殺兵器、「マウス22C」!
開催される巨大webイベント「ストーム24」!
一瞬の隙を突いて、少尉は二曹の口からマウス22Cのコードネームを聞き出した!
それは二曹がただの新人広報ではないことの、事実上の自白であった!
「さて、改めて自己紹介をしてもらおうか。今のままではなんて呼んでいいのかすら分からん」
「……内閣調査室、仲本上級分析官です」
「内調の……分析官?」
「この期に及んで嘘の上塗りか? 内閣調査室は一昨年の事業仕分けの折に解体された筈だ」
「……それは表向きの話です。外務省留学生支援課と名前は変わりましたが……実態は内調そのもの。仕分けられた予算も名が変わっただけで変わりなく計上されてます。もっともそれを証明する身分証等は、今は持ち合わせていませんが」
「それを信じろと?」
「どうとでも。しかし他言無用に願います。ここでの私は広報の二曹なので」
「備管別を、我々を調べに来たのか」
「高木少佐の事件。あんな報告がなんの問題も無く通ると思いますか? 三文スパイ小説じゃあるまいし。内調の判断は備管別の二人……あるいは同基地の上層部に共犯者がいる疑いがある、と」
「なるほどな……だがそれだけじゃないな?何故マウスを知ってる?」
「…………」
「二曹〜、ダンマリはもう無理だよ。話してみたら? 僕らで力になることもあるかも知れないし。ね、少尉」
「約束はできん。話を聴いてからだ」
「そこは『ああ。国賊を討つは我らが使命。七生報国。撃ちてしやまん海ゆかば』でいいじゃないですか」
「軍曹……普段どんな本を読んでるんだ?」
「ふふっ」
「笑いごとじゃないぞ軍曹」
「自分笑ってないですよ」
「すみません。今のは私です。最初は……この基地隊員の内偵が任務でした。そこに陸上装備研究所からの試作兵器強奪事件。この事件の犯行グループと高木少佐が関わりがある、という情報がありまして……その捜索、関連情報の収集も任務に追加されたのです。……マウスの名をどこで?」
「私にも友人はいる。皆、私に親切だ。……高木は、盗んだ試作兵器で何をしようとしてるんだ?」
「ブラックマーケットで売り飛ばす、とか?」
「さあ……ただ盗まれたマウス22Cは決して世に出てはならない、本当に恐ろしい兵器です。高木少佐はともかく、あれだけは必ず回収するか破壊しなければなりません。今更……こんなお願いをできる立場ではありませんが……協力して頂けませんでしょうか?」
「……と言われてもな。我々には我々の任務がある。それに私は今も君の話を信じ切れてない」
「私が知らされている情報は全てお話しします。ここにヘルプとして置いて頂くだけでいいんです。これは私の勘ですが……この一連の事件に関しては、備管別のお二人が誰よりも一番真実の近くにいる。そう思えます」
「しかし……」
「いいじゃないですか少尉。置いてあげましょうよ。内調って文民の機関でしょ? 格闘訓練受けてない女の子一人、いざとなれば腕づくで追い出せばいいんだし」
「怪しいと感じられたら、そうして頂いて構いません」
「上級分析官は大尉相当……立場は君が上官だ」
「いえ。ここでは新任の二曹です。そう扱って下さい。少尉が出て行けとおっしゃるなら、それに従います」
「……ですって。少尉。いいでしょ? 面倒は自分がみますから」
少尉は少し
そして顔を上げると言った!
「分かった。軍曹はタワー2の動向を常にモニターしろ。少しでも妙な素振りがあればすぐに追い出すからな!」
「さっすが少尉! 男前! 太っ腹! 今度マックおごります」
「いらん」
「改めて宜しくね、二曹」
「こちらこそ宜しくお願いします。軍曹」
「軍曹。任務中の同僚へのウィンクは禁じた筈だ」
「報告します! 先程左目に異物が侵入! 止むを得ず瞼を下げました! サー!」
「自衛隊に上官をサーで呼ぶ文化はない」
***
翌日!
二曹は約束通り、自分が与えられた全ての資料を持参し、その内容を少尉と軍曹とに開示した!
「……『マウス22C』は大戦末期に旧陸軍大久野島研究所で計画された『
「暗殺兵器……」
「鼠そのものの動きで敵施設に侵入し、音も無く標的を殺す……小型の自動殺人機械です」
「自律型殺人ロボットか。終戦までに実用化されたの?」
「いいえ。……試作機の画像です」
「何これ。トラクター?」
「当時は電子頭脳やセンサー類が小型化できず、動力も軽油の内燃機関を搭載していたため、試作初号機は全長2mを超え、作動するとけたたましい駆動音がしてとても実用に耐えませんでした」
「……設計段階で誰も突っ込まなかったのか?」
「イラク戦争以降、大規模紛争よりも対テロ戦争に想定戦況がシフト。敵要人を暗殺する小型ロボは再び脚光を浴びます。米国からの要請もあり『窮鼠二號』はアニマトロニクスを始めとする最先端技術の結晶『マウス21C』として生まれ変わりました。……その画像です」
「……鼠しか写ってないぞ」
「あ! 少尉! 見て下さい! しっぽの先! コンセントになってる!」
「見た目は鼠そのもの。超々ジェラルミン骨格に電磁セル式人工筋肉。ポジトロンLSIに自己学習プログラムを実装し、水素バッテリーの蓄電が減ると家庭用コンセントから自律充電して半永久的に稼働します」
「殺害手段は?」
「口の先端が無針注射器になっており圧搾空気を対象の動脈に注射します」
「跡は殆ど残らない。外傷も薬物反応もない……自然死か、何かの発作にしか見えないってわけか」
「盗まれたのはマウス22C……だったよね。21Cと何が違うの?」
「ノキグチ同盟を壊滅させる決戦兵器、と聞いたが?」
「マウス22C『フォックスキラー』は21Cをベースに、対ノキグチ同盟専用に再設計されたものです」
「再設計?」
「バッテリーの高効率化や、充電ジャックがUSBになるなど、いくつかの変更点はあるのですが、最大の特徴は……ネットワーク上のアイコンから人物を特定し、暗殺対象として自動追尾すること、です」
「アイコンから人物を特定? 冗談だろ?」
「にわかには信じ難いな……」
「2006年、ネイチャー誌に発表された『有意味画像の記憶領域』の論文は?」
「ケンブリッジのR・ロンシュタット博士。確か……画像の意味によって脳の記憶領域が異なる……という」
「はい。webアバターの自分のアイコン画像は大脳右側シルヴィウス溝、中央直上に記憶されています。22Cは睡眠中の目標候補に接近すると、両耳から微弱なガンマ線を放出、アイコン記憶領域を刺激してa10神経の興奮状態を内臓センサーで測定、並列逆フーリエ変換により記憶情報をデコードし、対象の脳内に記憶されたアイコンをある程度読み取ることができるんです」
「Twitterのアイコンを指定して、コイツを殺せ! と命令できるわけか……」
「そう上手くは行きませんでした。センサーで読み取る画像は不鮮明で……磨りガラス越しに見たような程度でしか判別できません。最新型では目標のある特徴を暗殺対象として認識するようプログラムされています」
「ある特徴?」
「アイコンの……ケモノ耳です」
「なんだと……!」
「同盟は指導者も幹部も多くがケモノ耳アイコンを利用しています。22Cを大量に生産しケモノ耳を殺せと命じて野に放つ……」
「ちょっと待った! 同盟に無関係な人でもケモノ耳アイコンなんて大勢いるよ!」
「猫や犬……実写のケモノ耳のアイコンの利用者もな」
「その通りです。そんな半端な兵器を解き放てば事実上……無差別の大量虐殺になる。計画は中止され、12台作られた試作機も封印された……筈でした。何者かが盗み出すまでは」
「自律充電しながら半永久的に、と言ったな。止める方法は?」
「輸送用アタッシュケースがそのまま制御装置になってます。」
「戦争はもう終わる。あと三ヵ月で。このタイミングでわざわざ危険を冒してそんな物を盗んでどうしようと言うんだ?」
「分かりません……。しかしそんなものが使われるような事態は阻止しなければなりません。絶対に」
「……分かった二曹。我々もできるだけの協力はしよう」
「本当ですか? 少尉」
「丸々嘘とも思えん。ただし任務の合間に情報を集める程度だ。我々の本分は飽くまでフォックス監視によるストーム24の被害予防だからな。それでいいな? 軍曹」
「了解。少尉がそう言うなら手伝いますよ。後でマックおごって下さい」
「断る」
「……ケチ」
「有難うございます! 少尉! 軍曹!」
「礼を言うのは早い。狂気の鼠を取り戻すか破壊するかした時に、その礼は受け入れよう」
「堅苦しいなぁ、少尉は。気にすんな! 仲間だろ! でいいんですよ。……どうしたんです? 怖い顔して」
「 軍曹! メインスクリーンを見ろ!」「え?……あ! 黒いウィンドウ……これは⁉」
そこには過去二回現れた謎のウィンドウが表示されていた!
黒い縁取りの短い英単語のメッセージ!
「……【WEDDING】」
「結婚……式?」
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