フォックスキラー
>ノキグチ ガラク@ストーム24
>こんばんは
>このツイートも見えているんですよね?
>某組織の監視者さん。
>今夜のストーム24のテーマは、あなた方から頂きたいと思います。こちらに連絡できますか?
>私に伝わる手段ならリプライでもメールでもブログへの書き込みでもOKです。
>いいお返事をお待ちしています。
「うわぁぁっっ……!!? 少尉っ! これっ! フォックス1が! フォックス1が!」
「落ち着け。軍曹。mrp値は?」
「は、はい。……え? 994.7? 嘘だ、いつの間に⁉︎」
「回線負荷の分布は?」
「じ、人口密集地中心に緩やかに上がっていますが、週末レベル。耐荷重までは余裕があります」
「訓練通りやればいい。手順をトチるな」
「了解。でも……まさか我々にテーマを振るとは……」
「ああ。常に我々の想像の斜め上を行く。これがノキグチガラク。我々の相手だ」
「……どうします?」
「セオリー通りなら無視だが……中将に相談しよう。デフコン3を発令する。笠岡に事情を連絡してフォックス2周辺の動きを洗い直してもらえ。君は直前までmrp値が1以下だったのに唐突にストーム24開催が決まった原因を調べてくれ」
「了解。部内警報ディフェンスコンディション3を発令します。mrpがあてにならないとなると、事前予想のプロトコル自体の見直しが必要になりますもんね……」
***
「……分かりました。ではそのように。……ええ。了解しました。ありがとうございます」
「司令はなんと?」
「出題者側とパッケージでモニターできる稀有な機会だからやってみろ、と」
「……面白いからやってみろ、ってことでは?」
「こちらの秘匿性は確保した上でだが」
「また……方法はこっち任せなんでしょ?」
「それは私がなんとかしよう」
「外部協力者ですね?」
「我々が直接連絡を取ればここがバレバレだからな」
「実家ですか?」
「さあな」
「お兄さんがドジ踏んでバレる恐れは?」
「兄はそんな不手際はせん」
「失礼しました」(やっぱ実家か……)「テーマはどうします?」
「決まっている。我々が任された以上、今回のテーマは『タイムライン』だ」
***
>テーマを決めて24時に創作作品をPOSTする遊び 『ストーム24』
>1029回目の今夜のテーマは謎の監視者さん提供
>『タイムライン』
>自由参加です。 #ストーム24 のタグをつけて下さい。テーマそのものは入ってなくてもOKです。
「公募ツイート投下確認」
「デフコン1発令」
「了解。ディフェンスコンディション1発令、ディフェンスコンディション1発令、これは演習ではない。繰り返す。これは演習ではない」
「mrp値と開催実態とに剥離が生じた原因はわかったか?」
「ああ、それなんですけどね。これを見てください」
「このグラフは?」
「ご存知の通り、mrp値はノキグチ同盟1078名の中の貢献度の高い上位10%……108名のネット上の活動をデータとして吸い上げています」
「オリジナル・ワンオーエイト。ノキグチ同盟最初期の108人。グラフは彼らのwebに対する賦活の履歴か」
「2時間前のここ。ここでサンプル108人の活動量がストンと落ちてます。当然そこから算出されるmrp値はグッと下がる」
「なのに2時間後にはテーマ交渉が投稿された」
「これは笠岡からのデータ」
「直近3時間で急に増加してる……なんの数値だ?」
「フォックス2が発信したDMの本数です。内容や宛先は分かりませんが」
「……そういうことか」
「フォックスの坊やは先立ってサンプル108名にしばらく大人しくするようにDMした。しかるのち、我々にテーマを振った。つまり……」
「こちらが開催予想にmrp値を参照していることも、mrp値をどうやって算出しているかも、同盟側に漏れている、と。高木の置き土産か」
「ですね。どうします? mrp値はデフコン発令に必要な基準数値の一つですよ」
「サンプル参加者のDM、メール、LINEなども含めた活動からmrp値を出す方式への変更を中将に具申しよう」
「DMはともかく、メールとLINEの傍受はそれぞれ現状の我々の活動とは別の法的根拠が要りますね。煙たがられませんか?」
「何かあってからでは遅い。有事即応は我々の原則」
「出世に響くのでは?」
「出世を気にして仕事の質を落とすのは本末転倒だ」
***
「内線、取ります。こちら備管別。はい、代わります。少尉、福島司令からです」
「加藤です。いつです? しかしそれは一度……分かりました。すぐ伺います」
「なんです?」
「高木少佐の件で陸幕の士官が面談したがってるそうだ」
「今更……しかもこのタイミングで?」
「馬鹿はどこにでもいる」
***
「長々と……象牙頭め」
「お帰りなさい少尉。どうでした?」
「どうもこうも……3人で代わる代わる質問攻めだ。行っては戻りで同じ内容を色々な言い方でな。そのくせこちらの話は一切聞かないと来てる」
「うわ……そりゃしんどいっすね」
「日本語は話せるが会話ができない連中さ。長く留守にしてすまなかったな。状況は?」
「mrp値はもう1300をオーバー。回線負荷も右肩上がり。盛り上がってますよー。監視者についての憶測や質問が飛び交ってます。うまく担ぎだされましたね」
「耳目を集めるのが仕事みたいなものだからな……流石と言っていいのか……時に軍曹。最近うちのマウスって新しいものに変わったか?」
「いいえ。そんな予算ないですよ。壊れてもないのに。どうしてそんなことを?」
「奴らの……陸幕の連中の一人に最後に訊かれたんだ。『ところで新しいマウスは君の手元か?』と」
「へえ」
「いや、いい。遅くなったが休憩を取れ。2時間だ。食事と、短くてもいいから仮眠を取れ。いいか、必ず仮眠を取るんだぞ」
「了解」
業務を引き継ぎ、休憩に入った軍曹はしかし、10分と経たずにバタバタと戻って来た!
「少尉! 少尉! 大変です‼」
「必ず仮眠を取れと言った筈だ。食事はしたのか?」
「さっきのマウスが気になって……陸装研の同期にもう一度電話したんです!」
「それで?」
「以前『マウス22C』という開発中止になった極秘兵器があったそうで……昨日盗まれたのがそれかどうかは分かりませんが」
「陸幕の連中は……それを捜していたのか」
「関係ない質問や作業で疲れさせて、最後の最後にふとカマを掛ける……使い古された尋問テクニックですよ」
「どういう兵器だ? なぜ開発中止に?」
「極秘で……そいつも詳しいことは知らないんですが。ノキグチ同盟を壊滅させる決戦兵器だと」
「盗まれたのは決戦兵器……『マウス22C』……!」
「ABC兵器の類でしょうか?」
「核、生物、化学……どれも持たず造らず持ち込ませずの原則だ。それにそんな物なら以前から五万とある。気になるのは『ノキグチ同盟を壊滅させる』というコンセプト。地域も立場もバラバラの彼らをどう壊滅させる?」
その時! 入室資格者のIDパスでしか開かない備管別のドアが開いた!
そこに立っていたのは、仲本美晴二等兵曹だった!
「失礼します」
「仲本二曹! ……何をしに来た?」
「え⁉ 二曹?」
「中将に許可を頂いて見学がてらヘルプに参りました。今後またヘルプの機会もあるでしょうし……今夜はストーム24開催とか」
「……狙いはなんだ?」
「見学とヘルプです」
「それだけじゃなかろう?」
「それだけです。ですが強いて言えば……お二人に興味が湧きました。もう少しお近付きになりたいなと。命令書は正規のものです。中将に確認なさいます?」
「…………」
「どうぞ。二曹。タワー2のデスクへ。分からないことがあったら遠慮なく訊いてね」
「ありがとうございます軍曹」
「私は許可していないぞ、軍曹」
「命令書はあるんだし……いてもらうしかないですよ」
「全く。どいつもこいつも……軍曹は引き続きフォックス1およびネットワーク諸元を監視。二曹はタワー2で笠岡との連絡を担当せよ」
「了解」
「了解」
「……軍曹。見えたぞ。今後、状況中の同僚へのウインクを禁ずる」
「……ケチ」
「何か言ったか?」
「いえ。了解!」
***
「mrp値1447.4……1450……1455……一定のペースで上昇中。回線負荷、エリアごとに乱高下。平均1650キロバイツゼカ。最高値3080キロバイツゼカ」
「笠岡より入電。最終予測です。予想参加アカウント2万3千。最大回線負荷6.3トンバイツゼカ」
「あと3時間……フォックス1は?」
「フォックス1依然沈黙。ここ8時間、目立った動きはありません」
「笠岡より転送なし。フォックス2も同じく沈黙。参加者ポストの現状について問い合わせますか?」
「いや、いい。今の内に交代で休憩しよう。二曹。45分だ。軽くでも食事を取って来い」
「了解」
***
「軍曹。例のウィンドウだがな。彼女には24時頃に間違い電話が頻発したと言ってある。何かの時は口裏を合わせてくれ」
「了解。あ、そうだ少尉……今度アレが出たら試したいことがあるんですが」
「試したいこと?」
「アクセスの逆探です」
「公認ツールで?」
「えーと……」
「シッ。彼女が戻った」
「戻りました。軍曹、休憩どうぞ」
「では少尉、休憩いただきます」
「ああ。君は1時間だ。間違えるな」
「了ー解っ」
「返事は短く!」
「了解!」
「いつもあんなやり取りを?」
「……毎回ではないが、まあまあの頻度でな」
***
「はいー、戻りましたー」
「やだ……何? タワー2に異常! モニターに断続ノイズ! 被クラックの恐れ!」
「見せて! ……ああこれか。少尉、大丈夫です。いつもの『しゃっくり』です」
「しゃっくり?」
「光ケーブルから漏れる微量の光波が共鳴して電磁的な振る舞いをし、機器に干渉するんだ」
「機器密度の高い場所で、かつ回線に高圧の情報が流れている場所では時々あることなんだよね。『グレムリンのしゃっくり』」
「……そんなことが?」
「デスクトップの『のど飴』を実行して」
「のっ、のど飴? あ、これですね……周波数を聞かれてますけど⁉︎」
「自動採値で」
「自動サイチ……了解。実行します。ほんとに直った……あ、いえ。状態回復。え、笠岡より入電! メインに表示します!」
「ちょい待ち! 『のど飴』はフォロースルーに時間がかかるんだ。アイコンが点滅中は他のことしちゃダメ。こっちでやるよ」
「……了解」
「准教授からの応援ですね。健闘を祈る、だそうです」
「准教授? ……あ、アイコンの点滅が終わりました」
「オッケー。笠岡との連絡業務を再開しよう。返電しといて」
「返電……ですか?」
「軍曹。二曹には初めての対応だ。指示は具体的に出せ。二曹。返電。協力に感謝する。以上」
「了解」
二曹は思った!
カーネギーメロン大学で学んだ先端ソフトウェア工学も、この部署では全く役に立たないと!
目の前で次々と起きる、およそ今までの任務とは似ても似つかない出来事の数々!
彼女は驚き、戸惑うと同時に、不思議に高揚する自分を、その胸の高鳴りを意識した!
「残り10分だ。各部最終チェック」
「mrp値なおも上昇中。現在1981.2mrp……1990……2000突破」
「笠岡は沈黙。転送なし。ダイダロス・ほくと間のリンクは安定。バッファ領域、オンライン」
「主電源、無停電電源装置に切り替え。バイパス確保。導線確認。直前シミュレートはポジティブ。予想被害なし。五分前。室内暗転します」
「え? 暗転?」
>大変長らくお待たせ致しました。
>間もなくストーム24の開演です。
>今夜のテーマは「タイムライン」。
>今宵も、今日と明日のはざまに煌めく詩と歌の競演を、どうぞごゆっくりお楽しみください。
二曹は見た!
それは吹き抜ける風だった!
それは轟く
それは荒々しい叫びであり、それは優しい子守唄だった!
迸る情熱! やるせない恋慕! シュールな哲学が次々と彼女を撃った!
ネットワークに溢れかえる研鑽された技術、閃き一本槍の突撃、知的な詩、感情を揺さぶる曲、抽象的な絵と具象化された立体物!
それは爆発する表現の閃光であり、胸を刺す創作の剣だった!
「これが……ストーム24……これが……あなた方の、備管別の任務……」
「そうさ……ちょっとばかり他の部署とは違うだろ? これで取り敢えずは回線負荷の下がり待ちだ。どっかのクランが少し遅れてまとまったポストすることもあるから、回線状態から目は話せないけど。フタヨンマルマルを乗り切ればまずは安心。助かったよ、二曹」
「通常だとここからは、回線負荷は下がる一方だからな。ご苦労だった。二曹」
「はい。ありがとうございます軍曹、少尉」
「ところで新型マウスは見つかったのか?」「いえ、フォックスキラーは依然捜索中……」
そこまで答えて仲本二曹は息を飲んだ!
だが、一度言ってしまった言葉を飲むことはできない!
慣れない任務による集中力の低下で、ストーム24が喚起した想定外の感動で、訓練された彼女が隙を見せたのはほんの一瞬だった!
だが少尉にはその一瞬で充分だった!
「フォックスキラー……か」
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