ボーイズ・ミーツ・ガール
翌日!
軍曹の休暇の代替スタッフとして仲本美晴二等兵曹が着任していた!
「定時方向。mrp値、直近3時間は1以下で推移。回線負荷平常レベル。4時ポスト以降は笠岡からの転送もなし」
「了解した。この部署はどうだ? 二曹。疲れたか?」
「お気遣いありがとうございます少尉。問題ありません」
「だらけろとは言わないが、もう少し気を楽に。まだ4時間あるからな」
「了解」
「二曹。福島中将とは親しいのか?」
「いえ。任地をご一緒するのも今季の異動でこちらに来て初めてですが。何故です?」
「今朝すれ違い様に、君の事を宜しく頼むと言われたんだ」
「……心当たりがありません」
「挨拶がてらか」
「少尉は親しいんですか?」
「中将が着任されて二年目。お世話になってはいるが、上官と部下の関係以上ではないかな」
「プライベートで会ったりはされないんですね」
「そうだな。今までにそういった機会はなかった」
***
「……少尉。部室前通路に不審者。7分ほど前からドアの前を繰り返し行き来しています」
「フタマルヒト番の映像だな? メインに回せ」
「了解。映像をメインに回します」
「ああ……問題ない。ここの正規スタッフだ。忘れ物を取りに来たんだろう。私が開ける」
「わっ! びっくりしたぁ!」
「……散髪したんだな、軍曹」
「申し訳ありません少尉。忘れ物を回収してすぐ帰るんで」
「ああ。そうしてくれ」
「お疲れ様です志村軍曹。本日代理を務めております。仲本二曹です」
「ご苦労様。あ、僕のことご存知なんですね」
「お噂はかねがね。拳銃射撃がお上手で、またIT技術に通じた優秀なオペレータだと」
「少尉………今の聞きました?」
「早く帰れ……と、いうか軍曹……今日はなんか……パリッとしてるな」
「やだな少尉。いつもと変わりませんよ」「忘れ物は? 大事な物だったんだろ?」「あ、そうだ。……あったあった。これこれ。制服のズボン」
「……帰りに履いてただろ。もっと自然な忘れ物は無かったのか?」
「それが……忘れ物を忘れておくのを忘れてて」
「……」
「軍曹は福島中将とはお親しいんですか?」「司令と? いやぁ3回位しかお話したことないなぁ。自分より少尉ですよ。ちょくちょく中将の相談に乗ったりしてて」
「相談? どんな?」
「軍曹。もういいだろう。ここは休暇の人間が軽々しく出入りしていい部署じゃないぞ。二曹も。状況中だ」
「失礼しました」
「申し訳ありません少尉」
「いつまでいる気だ? 早く帰りたまえ」
「……もうすぐ24時ですね」
「ああ」
「昨日はこの位でした」
「そうだな」
「24時を回って何事もなければマッハで帰ります」
「……時速でいい。衝撃波で施設が傷む。二曹。現在時刻は?」
「フタサンマルマル。プラスヒト、フタ、サン………」
「了解した。ありがとう」
「……何も、ないですね少尉」
「の、ようだな軍曹」
「この後…どうするんです?」
「どう、とは?」
「やっと二人きりになれたね、とかですか?」
「……立場が逆なら君は言うのか? それを」
「お疲れ様でした。お先に失礼します」
「ああ、ご苦労。休暇中の部内出入りは公には指導対象だが、24時を警戒してこの時間帯に来てくれた気遣いには個人的に感謝する。ありがとう」
「礼には及びません少尉。寝過ごした上にコーディネートに時間が掛かっただけなので」「ズボン持ってさっさと帰れ」
***
「状況は?」
「mrp値0.42。回線負荷、観測域平均で20.8バイツゼカ。問題なし」
「マルヒトまであと10分か」
「……面白い方ですね」
「軍曹か? あれで仕事はできる。頼れる部下だ。あの性格も……友人や恋人としてなら付き合い易いだろうな」
「少尉にはいらっしゃらないんですか?」「友人か?」
「恋人です」
「二曹。任務中の私語は服務規定違反だ」
「失礼しました。……先程軍曹がおっしゃってた……24時前後に何かあったんですか?」
「管理室名義の外線に間違い電話が続いてな。どこかのコンビニの支店と番号が近いらしい」
「そうなんですか」
「……気になるか?」
「いえ。そういうわけでは」
「ここの前は横須賀の総監部だったらしいな」
「はい」
「やはり広報で?」
「ええ」
「管区を越えて異動とは珍しいが……何か事情が?」
「元々こちらに補充されるはずだった方が妊娠なさったと聞いています」
「ほう。……情報工学で博士号。カーネギーメロン大学を飛び級で卒業。すごい経歴なのに自衛隊の広報か」
「元々、民間の接客志望だったんですが、父が……国に奉公しろと。だから部署だけでもせめて広報をと、志願したんです」
「……なるほどな」
「マルヒトマルマル。TL異常なし。メロンパン値0.72mrp。緩やかに下がる」
「状況終了。ログは纏めて……」
「コピーを本部と笠岡へ、ですね?」
「その通りだ」
「甲種秘匿圧縮で宜しいですか?」
「プロシジャ通りだな。問題ない」
「……送信完了」
「代理ご苦労だった仲本二曹。上がっていいぞ」
仲本二曹を先に退勤させ、クローズチェックを一通り終えて、基地駐車場に出た少尉!
だが、そこには意外な人物が待ち受けていた!
「お疲れ様でした。加藤少尉」
「仲本二曹……。どうした? 私に何か用件が?」
「うっかりしてました。バスなんてあるわけないですよね。よかったらですけど駅まで送って頂けませんか?」
「それは構わんが……」
「それに質問に答えて頂いていません」
「質問?」
「少尉に……恋人はいらっしゃるんですか?」
「……なぜそんなことを?」
「今は状況終了後で勤務時間外ですが……まだ私語禁止です?」
「二曹……」
「少尉も私に興味がおありなのでしょう? ずるいです。少尉ばかり私の身の上を訊いて」
「……ずるいついでにあと二つ、質問をしてもいいか?」
「どうぞ。スリーサイズ以外なら」
少尉は溜息を一つつくと、真剣な表情で二曹に尋ねた!
「君は誰だ? 一体、何を調べてる?」
初春の夜にしては肌寒い夜だった!
驚く二曹! 険しい表情の少尉!
情報自衛隊福山基地の深夜の駐車場に、びょう、と冷たい風が吹いた!
少尉は射るような眼差しを二曹に向けた!
二曹はしかし、その眼差しを正面から受け止めた上で柔らかく微笑んだ!
真面目な若手自衛官の初々しい印象はどこかに消え失せ、潤んだ瞳で艶やかに笑む二曹!
それは少尉が全く予期しない反応だった!
表向き平静を装いながら、彼は慄然とした!
そして同時に、彼女が只者ではないという疑惑を確信に変えた!
(薮をつついて……さあ、何が出る?)
深夜の駐車場で対峙する二人!
雲は月を隠し、一層濃くなった宵闇の向こうに明日はまだ見えない!
***
一方その頃! 軍曹は!
「うわウソだろ⁉︎ やっちったァァァァァッッッ! お湯捨てる前にソース入れちゃったよォォォォォォッッッ!」
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