FOXY

 人に休みあれど状況に休みなし!


 情報自衛隊・備品管理部別室は正隊員二人の零細部署である!


 休憩も休暇も交代で取るが、二人のどちらかの休暇中は他部署の甲種機密情報取り扱い資格保持者のヘルプで人員を補っている!



 これまでは、加藤少尉の不在時には設備部の熊野少尉が、志村軍曹の不在時にはソリューションエンジニアリング部の豆崎准尉が代替スタッフとして当たることが多かった!


「異常はないか? 軍曹」

「あ、お帰りなさい少尉。異常ありません。図書館のように静かです。……中将、なんのお話でした?」

「講和についてどう思うか訊かれたよ。中将もお悩みのようだ」

「なんとお答えに?」

「任務には注力しました。後悔はありません。その結果が敗北なら受け入れます。我々に不利な結果だとしても自国民の為を第一に考えて微力を尽くします、と」

「もう一度お願いします。メモるので」

「断る」

「いっそ……ノキグチ同盟側についちゃいますか? 少尉なら受け入れても貰えるのでは?」

「全く考えないと言えば嘘になる。だがやはり馴れ合いは結局互いの為になるまい。講和を結んでも一体化するのではなく、独立したよきライバルとして緊張感ある関係を保つべきだ」

「……保つ……べき……だ、と」

「そうだ、軍曹。明日は休暇だったな」

「ええ! その……仲本二曹に思い切って声をかけてみようかと思ってるんです。ダメ元で」

「そうか。一応伝えておくが……明日丸一日、君の替わりのヘルプはその仲本二曹だ」「へぇ、それは奇遇……って、えええっ⁉」

「私のせいではないが……なんか、すまん」

「でも彼女、広報で……機密取扱い資格は?」

「通常一級と特殊一級の資格保持者だそうだ。資料によると留学先のカーネギーメロン大学でネットワーク諜報の論文を書いて博士号を取ってる」

「なんでそんな子が広報に?」

「さあな。私的面接が叶ったら、その辺も質疑予定に入れといてくれ」

「ひーん……こんなんアリですか? これじゃなんの為に少尉の台詞をメモったんだか……」

「軍曹。まさか……私の言葉を自分の台詞として仲本二曹に語るつもりだったんじゃあるまいな?」

「だっ……まさか。そんなことしませんよ。」

「今『だっ』って言ったか?」

「……すみません」

「最初からそう言え」

「はぁ……」

「気持ちは分かるが……フタヨンまであと少しだが、まだ状況中だ。任務に集中しろ」

「了解。……mなんとか値、異常なし。色々普通。その他だいたい良し」

「適当過ぎるぞ。しっかりしろ」

「だって明日一日どう過ごせばいいんです?」

「『戦争論』のレポートを書け」

「……逆に出勤していいですか?」

「許可すると思うか?

 ん?……軍曹!」

「はい、何でしょう?」

「メインを見ろ! 黒いウィンドウがまた出てる!」

「え⁉ ほんとだ! 拡大します!これは……」

「【FOXY】……?」

「消します!」

「待て! スクリーンショットを撮って消さずにスキャンだ! 結果に差が出るかも知れない。今日はセカンダリから昨日と逆の順序で。ウォールの展開状況を確認」

「了解」


***


「……セカンダリは異常なし。プライマリ、スキャン開始。プロミネンスウォールも展開正常。念の為、抗体エージェントを増やします。イントラの動作が15%程度重くなりますが……」

「いい判断だ。許可する。対象ウィンドウはドラックを保て。変化があれば命令を待たずに即座に消去」

「了解」


***


「タワー2正常。タワー1のスキャンを開始。TL異常なし。ターゲットウィンドウ変化なし」

「FOXY……か」

「キツネっぽい、ですね……」

「色っぽい、とかセクシー、とかじゃないか?」

「……辞書によっては」

「辞書は高くてもちゃんとしたのを買った方がいい」

「留意します……タワー1も正常。全PC問題なし。フタヨンを回りました。mrp値、回線負荷、共に異常なし」

「さっきスクリーンショットを笠岡に送信して分析依頼。しまったな。昨日のウィンドウも消す前に画像で保存すべきだった」

「システム上の警告だと思いましたからね」「だがこういう続き方をするとなると……」「何らかの不正アクセス、です」

「……断定して良さそうだ」

「送信完了。ウィンドウはどうします?」

「消そう」

「消します。……やっぱり普通に消えますね」

「抗体エージェントのアクティビティは?」

「エージェントを増やしてからは、えーと、ウォール最外縁でスパムを3つ弾いてますね。MFの履歴です」

「それだけ?」

「はい」

「いつもより少ないくらいだな。昨日がCAUTION、今日がFOXY……か」

「色っぽさに気を付けろ……もしかしてこれ!」

「何か気づいたか⁉」

「仲本二曹の事では⁉」

「……君はそればっかりだな。彼女はFOXYというよりどちらかと言えばCUTEという印象だが」

「……きゅうとだね、と」

「軍曹。命令だ。今取ったメモを廃棄せよ。シュレッダーで」


***


「マルヒト経過。全て問題なし」

「状況終了。……今Tドライブに保存した本日付の『付記』を添付してログを本部と笠岡へ」

「その笠岡からです。該当の画面コピーだけでは判断困難、と」

「まあ……そうだろうな。退勤前に四台ともの一斉スイープ、デフラグ、スキャンを実施して帰ろう」

「PC由来ではない気がしますけどね」

「念のためだ」


***


 軍曹の指摘通り、PCのクリーンナップは問題なく終了し、二人はクローズ業務終了後、基地を出て駐車場に向かっていた!


「お疲れ様でした少尉。じゃ、ここで失礼しますー」

「ああご苦労。明日はゆっくり休め」

「あ! しまった!」

「どうした?」

「ちょっと忘れ物を忘れまして」

「結果忘れてない、とも取れるが」

「大したものじゃないんですが……明日取りに来ていいですか?」

「大したものじゃないなら……」

「いえ大事です! すっげー大事!!!」

「分かった分かった」


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