第6話 『森宮 結 ①』

 あれ以降、はくれんはというと。

「わぁ……!」

2人に招待された、新人発表会でろうされたソロ。息の合った2人の演奏に結も思わずはくしゆした。演奏後、ステージわきへはけた二人に結がる。

「すごかった!」

「ふふっ、ありがとう」

「結ちゃんが居てくれて、心強かったよ」

 自然とほほみあう3人。

 一方で、気になるのはひそひそ話。

「男同士でしょ?」

「やだ、気持ち悪い」

 その声に、結も思わずだまってしまう。

「……えっと」

「気にしなくて良いよ」

「自分たちで決めたことだから」

 そう2人は言ってくれた。

 それゆえ、余計に申し訳なくなる。

 しかし、そこでふと気づいた。


『2人が言ってるから、それで良いんじゃないの?』


「幸せ」とは、だれかが決める者ではなく、その人が決めるものなのだと。きょうだいに出来たこいびとたちだってそうなのだ、と。その人達が幸せなのだから、巫女みことして役に立てたのだ、と。

「……もっともっと、がんってね!」

 わかぎわには、そう言うことが出来た。

 2人も、こちらにがおで手をってくれた。


「良いって返事したけど、いっつもひっつくのやめなさい!」

「いだだだだ優樹さーん」

 変わって、けいだいそう中もお構いなしな花火と、引きはがそうとする優樹。これには結も苦笑い。

「結ちゃん、写真って!」

 わたされたスマホをあわてて手に取り、あきらめた優樹がしぶしぶ、楽しそうに花火がピースサインを出す。


 ――カシャ。


 ほん殿でんも入るように撮ってみたが、ごくつうに画像が保存された。『えにしさまも写るかな』とわずかに結は期待したが、特に何ともなかったようだ。

「ありがとー」

 にかーっと笑う花火の笑顔は、こちらも思わず笑顔にする。

「優樹さんとのしゃしーん、おっと」

「ったくもう、気をつけなさい」

 くるくる回って転びそうだった花火を、優樹が受け止める。にひひ、と笑う花火。仕方なさそうにでる優樹。

 何だかんだで、優樹の気分も悪くなさそうだ。

「花火、何か食べてく? たぶんカステラがあったはず」

「食べるー!」

 優樹が思い出したように言うと、花火と共に自宅へと消えていった。掃除していたゴミは、後から出てきたそうと共に片した。


 創と自宅にもどると、流海と優樹と花火で話に花をかせていた。

 あの一件以降、おたがい色々とれたようで、優樹もそつちよくな感覚を流海に伝え、流海もちゃんとそれを受け止めているようだ。

 創と結もその席にすわると。

「花火って、危なっかしいと思わない?」

 とつぜん、優樹が創に話題を振った。

 その創も、一呼吸置いた後、うなずく。

「えー? 花火ちゃんは健全ですー」

 ぶすっとふくれる花火のほおをつついてつぶす優樹。これを見ていると『妹(姉)が1人増えた』という感覚が近い。

 もっとも、いちゃいちゃしているのは、互いにこいごころがあるわけではないけいだったりする。

「……落ち着き、ないのは、直そう」

「えー?」

 一言だけつぶやいた創に、花火がわざとらしく不平を言う。それに『そりゃそうよ』とはなす優樹、苦笑いする流海。

 創はその中で、流海を見て微笑んで。

「……良かった」

 また、創がぽつりと呟く。あんの一言として。

 優樹とケンカが続くことも良くはないと思っていたし、流海の不安も解消されたからだ。

 それで改めて、幸せをかみしめた。


 一方、継はというと。

もも~」

「あはは……」

 いつものハグの相手が桃子に集中するようになったというのが変わったところだろうか。これには桃子も『うれしいようなずかしいような』と言っていた。

 ただ、継が見た夢の通り、旅行に少しずつ出かけ始めているらしい。桃子も喜んでいつしよについて行っているようだった。周囲も、じよじよだん通りに戻りつつあるという。

「結ちゃんのおかげかな」

 桃子がそう言ってくれた。

「結ちゃんのおかげで、結ばれ始めたって人、多いらしいし」

「そ、そうですかね」

 しかし、確かに思い当たる節が増えたかもしれない。

 現に、周囲にそういう人が増えたのだから。

 和樹のことも気になるが、少しずつ進展していくだろうと思いながら。


 もちろん、幸せそうな人を見るのは嬉しい。

 えんむすびの神様の巫女として、当然嬉しい。

 それでも、『神様じゃなくて巫女がそういう力があって良いのか』とも思い始めている。

 少し引っかかりを残しながら、結は日々を過ごしている。


 和樹と真里の関係は変わらず。

 幼なじみ同士のもんどうに、結も苦笑いするしかない。

「良いから使いなさい」

「まだだいじようだっての」

 ちなみに、これはスマホゲームでの会話。

 アイテムひとつ使うのにもいになったりする。ただ、どちらもおこっているわけではなく、ただえんりよが無いだけだ。

 そのほかの面々と同じく、真里も森宮家の自宅に上がることも多い。当然家族とも顔なじみで、その関係にとやかく言われることも少ない。

 そして、2人の関係を改めて書くなら、きよ感がとても近いということだろうか。遠慮がない分、お互いの性別を気にせずあれこれ話すのだ。

 だからこそ、両親もあまり心配はしていない。

「んー、じゃあ、ここで使うか」

「で、特技ゲージがたまったからそこで使えば楽じゃない?」

「だな」

 こい人と言うほどでも無く、これがふたりにとっての『当たり前』なのだ。きっとこれからもそれはあまり変わらないだろう。それでも、周りがそれをよしとして、本人達も気にしていない。

 そんな風に、2人の関係は続いていく。


 結はどうだろうか。

 まだちゃんとした自覚はない。しかし、ぼんやりと『女の子の方が好き』という気持ちがある。

「花火さん」

「んー?」

 そのため、優樹や花火に話を聞こうとすることが多い。

 すでにその関係を当たり前としている2人に聞いても、実のところ、まだ自覚の芽生えていない結にはあまりピンとくる話ではない。

 それでも。

「私は、『なんか女の子を好きになっちゃったけど、まあいいか』って感じで過ごしてるからね。『自分のなかで当たり前だ』って思うのが大切じゃないかな」

 普段いい加減な花火から、そんな真面目な話も聞けた。一方で、『じゃあ、私は誰が好きなんだろう』と、結はおもなやむ。同性に恋するかも知れないことは分かった。しかし、その相手が分からない。

『そもそも恋とは何だろう』という疑問がついて回る。

 ぐるぐると考えを巡らせても、何も分からない。

 だからこそ、『もっと周りの人達に目を向けてみよう』と思うことにした。

 性別は関係無く、そもそも『恋』とは、と。


 結の変わった『恋』が芽生えるのは、まだ少し先の話。

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