第4話 『森宮 継 ①』

 けいは良い意味で八方美人だ。づかいも出来るし、何よりくつたくの無いがおへだてなく接するその姿には、好印象を受ける。

 一方で、女子を中心にかんちがいさせてしまう人を続出させてしまうことも事実。父に似てまだ子供っぽいところがあり、それもまた好意を受けやすいの一つだと言われているとか。


 一八さいにもなるが、家に呼ぶ「友達」は男女を問わない。

 かれにとって、どこまでが友達で、どこからがこいびとなのかも分からない。それを彼にそれとなく問うてみると。

「え? みんな好きだよ?」

 という答えが返ってくる。もちろんそれだけなら、まだつうの回答なのだが。

「なんかこう、男の子でも女の子でも、ドキドキしちゃうことあるよね」

 そう、彼は簡単に相手と手をつなぐし、ハグもする。

 はしから見れば「うずうずしてきつく」みたいな風にも取れるが、この言動からすると、「だれでも好きになってしまう」ようにも見える。

 これもまた、父は社務所での話し合いのネタにしているし、そうなやみの種にもなっているのだ。


 よく言えば『親愛』だろうか。それにしてはスキンシップが多いと周囲に言われる。妹である結でさえも。

「……」

「結~」

 楽しそうに後ろから抱きついてなかなかはなれてくれないのだ。

 家族であっても接し方は変わらないのだ。


 あまり広く知られた用語ではないが、継のような『愛』の持ち方を『全性愛』と言うそうだ。『両性愛』、バイセクシュアルと言った方がより通じやすいかも知れない。

 しかし、継はあの花火でさえも「ドキドキしたことがある」と言っているのだ。

 そんな継なりの悩みというと、「誰でもドキドキしちゃうから、誰を選ぶべきか迷ってしまう」ということらしい。

「ううむ、お父さんに言われてもなあ。こればかりは、継が決めることだよ」

「そっか……」

 継と真の相談の場も持たれたが、さほど良い結論も出ずお開き。悩みながら、継も毎日を過ごしているのだ。

「確かに難しいですね。色々なえんがありますし」

「そうですよね……」

 こうかん日記でもその悩みを相談した。

 しかし、いくらえんむすびの神様でも、それを簡単にはしぼれないようだった。

『でも』とふと思い出す。

ももさんなら」

「確かに、小さいころからいつしよですね」

 池上桃子。小学校の頃から継にアタックし続けている、継の「友達」だ。

 当の継は、別にそでにしている訳ではないが、他と変わらず友達感覚で「好きだよー」と言っているだけである。

 そして、かのじよはそれにやきもきしている一人ひとりでもある。

「どうしましょう」

「そうですねえ」

 名案というものはそう簡単にはかばない。誰でも好きになってしまう人だからこその悩みだ。

 しかし、継は桃子の良いところをたくさん言える、とも言っていた。そこを足がかりに出来ないか、とえにしさまと意見をわしてとんに入ることにした。


 翌日。

「結ちゃん! 結ちゃんに相談が!」

 タイミングよくけいだいで出会って、一言目がこれだった。

 桃子はこう言った。

「結ちゃんなら、神様にお願い事を伝えてくれるって聞いて!」

『そこまで話が広がっていたの』と、結は目を丸くした。

 これまでの人々と同様に、結の手をにぎりながら。しかし、あながち否定は出来なかった。はくれんのときも、花火のときも、結とあくしゆした相手が結ばれる結果となったからだ。

 それに、実際「交換日記」という形でえにしさまと交流しているし、相談もしている。

 きっとえにしさまも分かっていて、桃子を引き寄せたのだろう。しかし、『分かっていないりをしないと、また後が大変そうだ』と結は思うことにした。

「あ、あはは……ぐうぜんじゃないですか、ね……」

「だってうわさになってるんだもん」

 こうせまられては、結も困り顔だ。実際、継とくっついてしいのは確かだ。とはいえ、誰とくっつくかを保証も出来ない。

『どうしよう』と思った矢先。

「あ、桃子だー」

 継が現れ、桃子が慌ててぱっと手を離す。いつものように継が強くハグをした。

『あのね、あのね』と小さな子のように継がはしゃぐ。複雑な気持ちの桃子は、少し苦笑い。

「昨日の夜ね、桃子が夢に出てきたんだ!」

 びっくりした顔をする桃子。うれしそうに続ける継。

「いっぱい話して、色んなところで遊んでて、見たことないようなところも!」

 それでね、と継が言う。

「これって、予知夢なのかなって」

 桃子の表情が、思わずゆるむ。

 もしもね、と継が繋ぐ。

「未来もずっと一緒にいられるなら、とても嬉しいなって気分で起きられたんだ」

 じわりと、桃子のじりなみだが浮かぶ。

「だから、一緒にいたいなって、桃子に伝えたくて」

「うん……」

 ぎゅっ、と桃子の手を取る継。

 それに応え、喜びをかみしめながら声をしぼす桃子。

「どうかな?」

「……うん!」

 ばっと桃子が継に抱きつく。

 継も、桃子に抱きつき返す。

 これが、継の答えだ。


 後日、幸せそうに遊びに出かける二人を見送って、結は境内でそうをしながらふと考えた。

「この家、変わった家だなあ」

 父親の話を聞いていると、様々な愛の形があることを知る。そして、結自身もそれを受け入れ、実際、家族の中に「当事者」が生まれるようにもなった。たぶん、世間から少しはずれた感覚の家庭にいるのだろう、と考える。

「あ、結ちゃん」

「おはよう」

「おはようございます」

 琥珀と蓮が遊びに来た。

 聞けば、音大に通って管楽器の演奏を勉強しているのだそうだ。

「それでねー」

 この二人には、一緒に居ることがすでに当たり前なのだ、と結は感じた。その気持ちは、きっとそれまでの関係の延長線上なのだと。優樹や花火も、そして継と桃子も。

「私は、どんなこいをするのかな……」

『兄で次男の和樹はどうなんだろう』と結は思った。結の中でまだ実感としていていない恋というものを年の近い和樹なら、何か持っているのではないか、と。

 自分の部屋にもどった後、和樹の部屋のドアをノックした。

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