第3話 『森宮 創 ①』
「優樹さーん」
「はいはい」
あの話以来、花火に対する優樹の当たりも
ただ、
「……結は、どう思う」
「どうって……」
創のぽつりぽつりと
「私も、色々考えてはいるけど、まだ『正しい』とか『正しくない』とかまでは分からないかな……」
「……そう」
小さくため息をつく創。両親はあの様子なので、優樹の件についてとやかく言うつもりはなさそうだ。結を
そんな創を、結自身も心配している。あっという間に
創は常識を重んじる人だ。それでいて、少し
創が、早朝に
だから、社務所での真との話し合いに参加することも多い。その中で、父と少し言い合いになることも増えた。
『今までのカップル
それに対して、真は少し楽観的な見方をしている。
『どちらも大切にします、という姿勢を見せれば良いんじゃないかな』と、真は返していた。
創の考えとは裏腹に、社会は少しずつではあるものの、同性愛、
もちろん、創のように否定的な見方をする人々の方が多い。しかし、真は『それを受け入れた方が、時代に取り残されない』と主張しているのだ。
「……いまいち、納得がいかない」
まんじゅうを
彼女がいて、他の家族と同じように暮らしていたつもりだったのに、いきなりそれが変わってしまったのだ。
例えば、
「男と女が
結なら同じ事を考えるだろう、と思って結に話しかけているのだが、結自身の考え方も、実のところまとまっていないのだ。
「うーん、お兄ちゃんはそのままで良いと思うけど」
「そう、じゃなくて……なんというか、家庭が、
「あー……」
創の考えも、納得できるものだった。
同性婚は、世間
そして、何より創は異性が好きなのだ。
『普通』でありたいのに、『普通』でなくなってしまった。
「流海も、心配、してたし」
そうしてため息をつく創であった。
婚約者の流海は大人しくも美人だ。和のものを好む創に、わざわざ着物を買ってまで着て遊びに来る感性もある。そして、創が神社の
「創、あなたは
この不安そうな表情が、今、創の
「
「……うん」
いつもであれば
すれ
自分は変わらないこと、一方で、きっと同性愛者の家族が居ることを認めた上で、周囲に納得させなければならない。既に優樹と何度かケンカをしている。ケンカをすればするほど認められなくなり、流海とのすれ違いも広がってしまう。
別の日。
「……」
「……」
結が優樹と
「あ、あの」
そして切り出した声も重なり、会話が続かない。
「……流海ちゃん、創を呼んでくるわね」
そして、優樹は
「あ、……結ちゃん、ごめんなさいね」
「う、ううん……」
自分の妹のように
「……優樹さんも何も悪くはないって、分かってるけど、つい不安になっちゃうの」
流海はやはり不安そうに、しかし、自分の気持ちを確かめるように言った。
結は意を決して口を開いた。
「創お兄ちゃんは、たぶん迷ってるだけ、だと思う」
「うん……分かってるの」
「それに、流海さんと居るときの創お兄ちゃん、すごく嬉しそうにしてるから」
少しだけ、こわばった流海の表情が
「……流海」
「創……」
しばらくして、創がやってきた。気まずそうにそっぽを向いた、優樹を連れて。
「父さんにも、言われたけど……少しずつ話し合う、ことにした」
「…………うん」
「優樹の話も、聞いて
「……うん」
「好きだから、
「……もう、大丈夫だと思う」
「……?」
小さくやり取りした後、流海が顔を上げて言った。
「花火ちゃん、だっけ。あの子とも話すし、優樹さんもいい人だって、分かってるから」
「周りには、少しずつ、話そう」
「そうね。一緒に、考えたい」
「うん」
そっぽを向いていた優樹が、二人を見る。
「その……創も、ごめんね。流海ちゃんも」
「いや、いいよ」
「平気です」
「創も思ってるだろうけど、考え方は一緒なの。『一緒にいないと落ち着かない』って」
「……ええ」
「だから、ちゃんと相手をしてみることにしたの。ただそれだけだし、進み方はきっと一緒だから」
そう優樹が笑うと、ふわりと、流海も、創も笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます