第2話 『森宮優樹 ①』

いそがしいです」

「一気に人が来ましたものね」

と、結とえにしさまとのこうかん日記。


はくれんのニュース以降、うわさを聞きつけたカップルたち――当然異性同士に限らず――が森宮神社をおとずれるようになり、毎日のように、特に休日はにぎわうようになってきた。

父親の真は「うれしい悲鳴」だと言っていたが、同時に「異性カップルが来づらくなってないかな」と心配していた。

「……あ、琥珀さん達からだ」

メッセージアプリで琥珀達ともやりとりするようになり、感謝とともに、周囲の変化を教えてくれる。

 しんせきや友人からはきよを置かれるようになったこと。大学でいじられるようになったこと。

そして、すでどうせいを始めていること。

「私はどうなんだろう……」

同性カップルから、様々な話を聞くようにもなった。

琥珀達と同様に、周囲の変化に苦しんでいる人達も多くいた。

それに比べて自分はどうだろうか、と結は考えをめぐらせる。女の人を好きになるのだろうか、と。

けいだいそうをしていると、姉の優樹がやってきた。

「結、ゴミぶくろ、持ってきたわよ」

「ありがとー」

サバサバしていて、大分ガサツな性格。物言いははっきりしているのが、森宮優樹という女性だ。

そして、結が気になること。

「(……胸、あんなに大きくなれるかな)」

結はまだ13さいとはいえ、ほぼ一回り年上の優樹の、巫女みこ服の上からでも分かる胸の大きさは男性の目を自然と引いてしまう。

「片付け、手伝うわよ」

「うん」


そんな優樹にも、苦手な相手が居る。

「優樹さーん」

げ、と優樹が言う。

こしに高校の制服を巻き、シャツ姿の女の子が、そめはなだ。

「優樹さーん、今度いつしよに遊びましょうよー」

「遊ぶのはいいけど、む、胸をさわらない!」

スキンシップとしようして、花火が胸をもうとするのをなんとか制止する優樹。

結も、思わず苦笑いしながらそれをながめる。

「結も止めてー!」

花火は、数年前からここに遊びに来ては、そこでひとれしたらしい優樹にこうして話しかけてくるのだ。

「だーっ、もう、はなれなさい!」

「やーだー」

花火がしつこく離れず数分間のかくとう

さすがに見ていられなくなってきた結がはなして。

「ちぇー、優樹さんのいじわるー。じゃあ結ちゃんをさそっちゃおうかなー」

言うなり、ひょい、と花火が結をおひめさまっこ。

「ひゃああっ!?」

「あーんーたーねー!!」

優樹がずかずかと近づいて、さっとうばかえして結を立たせてから。

「あいだだだだだ!」

優樹が花火の耳をこれでもかと引っ張り、花火が思わずさけぶ。

「いい加減にしなさい」

「は、はーい……」

優樹は少し乱暴なところもあるが、家族思いでもある。

そんな優樹を、結もしたっている。

「じゃあ、代わりに!」

そう言って結の手をにぎる花火。

「そんなことしても何にも出ないわよ」

がんけだもーん」

結は『確かに少し噂になってたけど』と学校でもあくしゆをせがまれたのを思い出す。

しばらくして、花火は満足そうに手を離して。

「じゃあおじゃま虫は退散しまーす」

「さっさと帰った帰った」

『ったくもう』と、ため息をつく優樹だった。


あの日以来、優樹の様子がおかしい。

「……ご飯いいや」

毎日食欲がなさそうで、家族みんなが心配そうにしている。特別元気がないというよりは、どこかぼーっとしている感じだ。

ふと、琥珀達のことを思い出す。結と握手した人達が、何かしらの形で結ばれているような気がする。

一方で、学校など外では特に何か起こった様子がない。

「……?」

結は首をかしげた。

何か理由があるのだろうか、と。

優樹は『女の子には特別興味はないかな』とか、『イケメンとけつこんしたい』とかつぶやいているくらいなので、きっと男の人で気になる人がいるのかな、と考えた。


その食事の後、優樹の部屋を訪れた。

「なあに?」

「なんか、なやごとある?」

「……何でも無い」

優樹はそれっきり『そっとして』と聞いてくれなかった。ますます分からない。

「どうしてですか?」

結は、優樹のことをえにしさまに交換日記で問いかける。

「花火さん、優樹さんにドキドキしているのが伝わってきていました」

確かに、目をキラキラさせて優樹に近づいてきたというのは覚えている。

それが、まさか、女の子同士だなんて。

「それは、琥珀さんたちみたいに?」

結の問いかけに。

「そうですし、そのドキドキする気持ちを支えてあげたい、というのが、私の願いです」

えにしさまはそう答えた。

「でも、優樹お姉ちゃんは」

「今は、すごくなやんでいますね。自分ではそう思ってなかったことが起きると、そういうものです」

えにしさまが、結にやさしく答える

「少し、心配です」

だいじようです。優樹さんの性格なら、ちゃんと答えを出せます」

それは、いつも見守っているえにしさまだからこその言葉だった。


翌朝の朝食で。

「あ、あのね」

しよくたくで優樹がぽつりと切り出し、家族の注目が集まる。

「どうしたの、優樹」

父の真が聞き出し、結は『まさか』とはしを止める。

優樹らしくない、少しもじもじとした間の後。

「女の子、好きになっちゃったかも……」

「!」

長男のそうしるした以外、他の家族も箸を止めた。

結をふくめた下の3人は事の成り行きを見守る。

「優樹も、か」

真は特におどろいた様子も無く、静かにうなずきながら言う。

母の百合ゆりは少し目を見開いていた。そんな妻に、真が『大丈夫だよ』と微笑む。

「お父さんとしては、別にとがめやしないよ」

「えっ、なんか『本気か?』とか、ないの?」

「お母さんも、優樹がそう思ったなら、おうえんするわ」

「で、でも」

「最近、同性のカップルもえんむすびのお願いに来るくらいだからね。さらに、この間ニュースになったくらいだ。社務所の人達とも話し合いを進めているしね」

両親はにこにこと答える。

そんな両親と優樹とを、下の3人がこうに見る。

「……じゃあ、良いのかな」

優樹が、またぽつりと言った。

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