第4話 チップ
「ここまでくれば大丈夫かな」
そう言って、ニコルが街外れの家に入る。
それに続いて中に入ると、他の家とは違い生活している気配がした。
おそらく、ニコルが使っているのだろう。元々彼の家だったのだろうか。
「それで、チップについてだっけ」
「ああ。一体何なんだ?」
「右手の甲に埋め込まれてるメモリの事だよ。生年月日やら血液型とかの個人情報が入ってる」
「個人情報?」
「例えばの話、名前と生年月日が分かれば、登録されてるデータを元に現在のことがわかるでしょ。その役割を果たすのがチップさ」
「……なるほど。そのチップってやつを使って情報のやり取りをしていたわけか」
そういうこと。とニコルは言いつつ、水の入ったコップをこちらに渡す。
それを飲むと、非常用のとは違い新鮮な味がした。
「チップがあれば住民と認められ、また、その人物の全てをわかるようにした」
「どうしてそんなことを?」
「機械が身近にあったから、一々データを入力するより遥かに楽だったのさ。
あとは……恐ろしかったんだろうね」
「恐ろしい?」
「人間という存在がさ。
機械は嘘をつかない。でも、人間は嘘をつかないとは限らないでしょ。
チップを通じて、その人の人柄が見れるということに安堵したんだ」
「怖いな。可視化出来るものが全てって事だろ」
「うん。まるで、首輪をされてる様だったよ」
首輪、か。確かに、自分の事が全て情報化されてるのは息苦しかっただろう。
誰だって人に見せたくない部分はあるだろうに。この国は、どこかずれていたのかもしれない。
それにしても、個人情報を扱うチップか……。
チップの情報を使えば、機械を狂わせた人物がわかるかもしれないな。
「なあニコル。機械を妨害してる奴を知らないか?」
「それ、僕だよ」
「……はい?」
「え、とっくに気付いてるものだと思ってたけど」
言われてみれば、ニコルは機械化していない。
それに、この国に居たなら何か対策を知っていても不思議ではない。
当初の目的は果たしてたってことか。
「オーリが国に入りたそうだったから、助け舟を出したってわけ」
「そういうことだったのか」
「オーリなら、この国を終わらせてくれると思ったからね」
「終わらせる?」
「機械が人間を真似るなんてやっぱり間違ってるよ。機械達の覚めない夢を終わらせないと」
そう言うニコルは真面目な顔をしている。
まだ幼さが残る少年が、そんな事を言い出すなんて思わなかった。
生き残った彼が、一体どんな思いで機械達を見ていたのだろうか。
それを考えると、これはニコルなりの救済なのかもしれない。
「わかった、終わらせよう。機械達の為にも」
「……ありがとう。オーリ」
便利屋オーリが世界を救うまで 勾坂 幾人 @yukine_021
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